世界のトップエリートは、子供時代にどのような本を読んでいたのでしょうか? 今回は海陽学園の協力で、イギリスの超名門パブリックスクール、イートン校のブックリストを入手することができました。元外交官で作家の佐藤優氏が講評します。
これらのブックリストは、完全に将来、人の上に立つエリートに対象を絞って選ばれています。
その理由としては、アンソロジーが入っていないから。アンソロジーとは、日本の国語の教科書のように作品の一部を抜粋して編集した「選集」のこと。これは便利な加工食材で、あとは家で揚げるだけ。効率重視の大衆教育に用いられます。
それに対しリストの本は、すべてオリジナルです。肉なら肉、野菜なら野菜という素材を、そのまま生徒に渡している。だから、生徒はこれらの本を自分で料理しなくちゃいけない。塩、こしょう、スパイスを使って、味付けをする訓練を早くからさせている。エリートになる君たちには教科書だけでは足りないと言っているのです。
国際的な視野で、古典から現代作品まで幅広く読ませようとしています。なおかつ、人文系重視です。昨今は理系教育が重視されていますが、トップエリートを育成するには、文系教育重視だとよくわかります。
具体的に見ていきましょう。まず、イギリス人の常識として「シャーロック・ホームズ」「007」シリーズなどが入っている。
レマルクの『西部戦線異状なし』は、第1次世界大戦の総力戦の恐ろしさを教えるためにあります。イギリスは第2次大戦では空襲を経験していますが、第1次世界大戦では戦場になっていません。イメージが希薄なため、この本が必要なのです。