これから家を買う人は、どうするべきか

05年に元1級建築士が構造計算書(建築の確認申請で必要になる計算書類。建物の強度や安全性を示す)を偽造した耐震強度偽装事件が起きてから、再発防止で建築基準法が改正され、耐震設計ができているかどうかのチェックは厳しくなった。しかし、それはコンピュータで行う設計上のチェックにすぎない。現場で設計通りに工事が進捗しているかどうかは別問題だ。

オーストラリアなどでは家を建てるときに施主が第三者の専門家にチェックを依頼する。建築途中から現場を視察して、たとえばパイプが正しくつながっているか、電線が危険な場所を通っていないか、など全部チェックして、最終的な検収もその専門家に任せる。日本では注文通りにできているかどうか、施主が検収するのが一般的だが、素人では細かなチェックはできない。

買い手が欠陥を見抜くのは難しい。横浜のマンションのケースでは、施主で販売元の三井不動産レジデンシャルが第三者の専門家を雇うべきだった。だが元請けが兄弟会社の三井住友建設だから、そういう発想にはならなかったのだろう。杭打ちデータの偽装は広く日本中で行われている可能性があるし、そもそも地盤がそんなに信頼できるのかという問題もある。3.11では千葉県浦安市で深刻な液状化被害が発生したが、杭が地盤に達していても間の軟弱地盤の対策がなされていなければ液状化する可能性はある。これから家を買う人は販売元や元請けが大手だからと安心しないほうがいい。なるべくなら、築5年以上の中古物件をお勧めする。欧米で中古物件のほうが高いのは、そのあたりの安心料も含まれているからだ。今回の傾きマンションの教訓はそれしかない。

当該マンションについて、三井不動産レジデンシャルは傾いた1棟を含む全4棟の建て替えを前提に、転出希望者にはプレミアをつけて買い戻すと誠意を見せているが、ここから先が難しい。似たようなケースは過去にもあるが、住民の意見が割れることが多い。慰謝料で買い取ってもらって喜んで出ていく住人もいれば、「ウチは傾いてないし、子供の学校を変えたくないから出ていかない」という住人もいる。全員が出ていかない限り建て替えられない。結局、住民同士の訴訟になって10年かけてようやく決着、というパターンもありうる。

(小川 剛=構成 市来朋久=撮影 時事通信フォト=写真)
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