“スピードの経済”の第1は、顧客価値の向上である。これは、スピードの向上そのものが直接的に顧客の便益を高めるという効果である。

鉄道事業ではどうか。簡単な例題で考えてみよう。2大都市間の移動に8時間を要するC鉄道があったとする。革新的な新型車両の導入により、これが2時間に短縮された。

その利用目的がビジネス上の商談であれ、プライベートの芝居見物であれ、こうしたスピードアップは、C鉄道の顧客を時間的制約あるいは宿泊コストから解放する。これがスピードアップの第1の効果であり、この顧客価値の向上はC鉄道の利用拡大をうながす。

“スピードの経済”がもたらす第2の効果は、投資効率の向上である。これは、スピードの向上による回転率の上昇が投資効率を高めるという効果である。スピードの向上は、利用拡大に加えて、コストダウンを通じても投資効率の向上に貢献するのである。

第2の効果についても、先の例題で確認しておこう。C鉄道ではスピードアップの前には、2都市間で八車両編成の列車を日に1便、トータルで16時間をかけて往復させていた。スピードアップ後も1日当たりの利用客数は変わらないものとする。

ここで従前と同じ旅客輸送量を確保するには、列車の編成を2車両にして、これを4往復させればよい。このように、スピードの向上により回転率が高まると、2車両で従前の8車両と同じ輸送量を実現できる。仮にスピードを高めた新型車両の製造に1車両当たり3億円と、従前の車両の3倍のコストを投じることになったとしても、この回転率向上があるので、同じ輸送量の実現に必要な車両製造費用は25%削減される。

“スピードの経済”の第3の効果は、廃棄ロスの減少である。これもコスト面での効果であり、回転スピードが高まれば、商品の廃棄量が減るという効果である。

鉄道の事例でいえば、たとえば車内で販売する弁当の廃棄量である。C鉄道では始発駅と終着駅で弁当を車内に積み込んでおり、その販売期限は車内に積み込んでから8時間である。従前は、終着駅到着後の弁当の売れ残りは、すべて廃棄しなければならなかった。だがスピードアップを実現した後は、復路での販売も可能となるし、そもそも8時間をかけて販売する弁当の全量を一度に車内に積み込まなくてもよくなる。多頻度少量の補充が可能となり、当然ながらその廃棄量は減少する。

そして第4の効果は、切り替えコストの減少である。これは、回転率が上昇すると新商品への切り替えコストが相対的に低下し、タイムリーな新機軸の導入が容易になり、顧客にとっての便益が高まっていくという効果である。

C鉄道では、一定の走行距離を超えた車両については、怠りなく更新している。この場合、スピードアップにより1日に4往復する新型列車は、1往復する従前の列車の4分の1の期間で新車両に入れ替わっていくことになる。更新の期間が短くなれば、装備やインテリアのトレンドを踏まえた新型車両をタイムリーに投入していくことが可能になり、顧客価値の向上をうながす。