うまいわけではないのに行ってしまう店

そして、これからの時代の飲食店に求められるもう1つの価値とは「居場所として機能すること」です。スターバックスが昔から「サードプレイス」という概念を提唱していることは有名です。サードプレイスとは、自宅でも職場(学校)でもない、自分にとっての第三の場所を意味しています。そうした居場所において、ぼーっとしたり、読書をしたり、仕事をしたり、雑談をしたりできるというのは、お客が飲食店に求める大切な機能です。つまり、カフェと呼ばれるジャンルの飲食店は、そのようなニーズに真正面から応えているわけです。

場を提供することに加えて「居場所」と感じてもらうために重要なのが「人」の存在です。皆さんの中にも、「取り立てて何かがおいしいというわけではないのだけれど、店主やスタッフに会いたくなって足を運んでしまう店がある」という人は意外といるのではないでしょうか。多くの仕事において「結局は人」と言われるものですが、飲食店はとりわけその重要度が高い業種でしょう。店にいる人の魅力によって、お客が「ここは自分の大切な場所」と感じてくれるのです。

こうして考えてみると、「夜のサードプレイス」とでも呼ぶべき「スナック」に注目が集まることも理解ができる気がします。飲食店が飽和し、グルメ巡りにもある種の嫌気がさしてしまった人たちが、「人の魅力」だけで勝負しているとも言えるスナックに今改めて面白さを感じているのではないでしょうか。

ただし、注意しておきたいのは、東京や都心ではなく地方に目を向ければ、現在でもスナックは「現役バリバリ」だということです。日本全国には現在でもスナックが8万軒とも10万軒とも存在していると言われますが、そこでは毎夜、人と人との濃密なやりとりがかわされているのです。これからスナックがブームになるとは思いませんが、スナックとは実は飲食店の本質的な価値を体現した存在なのだと思うと、その見え方も変わってくるのではないでしょうか。

子安大輔(こやす・だいすけ)●カゲン取締役、飲食コンサルタント。1976年生まれ、神奈川県出身。99年東京大学経済学部を卒業後、博報堂入社。食品や飲料、金融などのマーケティング戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、中村悌二氏と共同でカゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』。
株式会社カゲン http://www.kagen.biz/

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