にわかレトロ横丁が生まれている

私ごとで恐縮だが、80年代の終わり、大学進学で東京に来て最初に住んだのが三鷹だった。吉祥寺にも歩いて20分ほどの距離で、バイトや買い物、飲み食いなど生活圏の中心は吉祥寺だった。というわけで、懐かしさもあって本書を手に取った。

『吉祥寺「ハモニカ横丁」物語』井上健一郎著 (国書刊行会)

「ハモニカ横丁」(ハーモニカ横丁)とは、JR吉祥寺駅北口の真ん前にある一画の名称だ。ここは戦後のヤミ市をルーツにした商業地で、約3000平方メートルの入り組んだ路地に、飲食店をはじめ100軒ほどの小さな店がひしめく。東京の住みたい街アンケートで常にトップクラスにあるオシャレな人気タウンでありながら、その玄関口に堂々とこうした場所が存在するというのはすごいことだ。しかも多くの若者でにぎわい、いまや吉祥寺のランドマークとなっているらしい。本書は、そんなハモニカ横丁を軸に、全国に点在するヤミ市起源の横丁の歴史をたどりながら、その魅力に迫った「横丁文化論」である。