仕事ができる人の振る舞いが美しい理由

格安の居酒屋に入り、わいわい騒いでいる学生や赤ら顔で愚痴を言い合うサラリーマンに顔をしかめる。かといって、ちょっとお高い料理屋なんぞ、予算が無い、敷居が高いと言って敬遠する。自らの経験を述べれば、恥ずかしいほど情けない夜の彷徨話だ。

『仕事ができる人は店での「所作」も美しい』北村 森著 朝日新聞出版

だから、高級料亭には行ったことはないし、フレンチレストランだってワインはソムリエに任せるしかない。首相が外国のトップと行った鮨屋など、行っても味が分からないだろう……なんて、貧乏人の僻み根性丸出しの逆ギレ科白を呟いていたら、この本に出くわした。

タイトル『仕事ができる人は店での「所作」も美しい』とは、長引くデフレ不況で喘ぐ自分には無関係かと、最初は思った。しかし、読めばそれは全くの勘違いであることを思い知らされる。もちろん、会社の経費での接待や相手に誘われてついていったら敷居の高い店だった……なんて話は枚挙に暇が無い。

ざっと捲ってみると、その見出しがふるっている。「『ルール』は自分のため、『マナー』は人のため」、「いい靴より磨いた靴、いい靴下より履きたての靴下」、「いい腕時計をしている客と腕時計ひとつしていない客」、「支払いをスマートに終えるための勘どころ」、「女性の引き立て方にも和と洋の違い」、「“気持ちのいい奢られ方”というのがある」などなど。その数、41。サブタイトルの「一流とつき合うための41のヒント」は、その由来だ。

どの見出し一つ見てもイメージが湧き、「あ、そうだよな」と妙に合点がいったり、「あ、それ前から気になっていたことだ」なんて思えたりする。

たとえば、「いい腕時計……」。日本料理屋では、腕時計をはじめ、指輪やブレスレット、ネックレスなどの装飾品は外しましょう、という話。というのも、盛りつける器に当たって欠けたりしたら無粋極まりない行為として「器が泣いている」と言われてしまい、お店に迷惑をかける羽目になってしまうということ。もちろん、そういったマナーを心得ている得意先を接待しようものなら、「何にも知らないヤツ」と判断され、折角まとまりかけていた商談を逃すことさえ考えられる。