その料理、家でつくれない?

そんな難しい時代に生き残っていくために飲食店が提供すべき価値とは何でしょうか。いろいろな考えがあるでしょうが、私は次の2つが大切なのではないかと思っています。1つは「家庭では食べられない」という価値です。先ほどコンビニ弁当や調理家電が、飲食店にとっての強力なライバルだと書きました。加えてネット通販も脅威です。例えば、おいしい殻付きの生牡蠣を食べたいと思ったときに、これまでであれば飲食店でしか味わうことはできませんでした。

しかし、今ではネットを検索すれば、日本各地から殻付き生牡蠣を取り寄せることができます。すると、生牡蠣を食べるという点に限って言えば、居酒屋やオイスターバーはその優位性を失うわけです。同様に、松阪牛のすき焼きも、鮮度の良いホルモンを使ったもつ鍋も、飲食店と同レベルの味が家庭で堪能できます。むしろ価格という点を加味すれば、自宅で食べた方が存分に楽しめるとさえ言えるのです。

そうだとすると、飲食店は「家庭では食べられない」という点を、もっと追求せざるを得ません。例えば「窯焼きピザ」を考えてみてください。なかなか庭に石窯があるという家はないでしょうから、窯焼きピザはわざわざ飲食店を訪れて味わう価値があると言えるのです。あるいは最近家庭では揚げ物をしなくなりました。その結果、熱々の天ぷらやとんかつを楽しめる店も相対的に強みを持つわけです。

つまり、家庭では入手しにくい素材(朝どれの魚介など)、家庭では難しい調理法(窯焼きや炭火焼きなど)、膨大な手間や時間がかかるもの(熟成肉や、豚骨スープが必要なラーメンなど)、あるいは素人では到底太刀打ちできない料理人の技術など、「家庭では食べられない」という価値を持つことが、今後飲食店が生き残っていくためにはとても大切なのです。