なぜ防災キットを本棚に置けるものにしたか。それは災害時、すぐに手に取れる場所に置かれるものでなければならないからです。横にも縦にも置けるように、本の表紙にあたる部分と側面にそれぞれ文字列を並べています。

本棚に置かれるためには、実際の生活空間に馴染むようにスッキリとデザインされたものにする必要がありました。それに防災キットという性質上、清潔感や衛生観念を想起させるものでなければなりません。たとえば我々の命を助ける赤十字や救急箱には、清潔感のある印象を抱くでしょう。その発祥はスイスです。だから「スイス・タイポグラフィ」というスイスらしいフォーマットに沿って、「THE SECOND AID」「GOODS」「BOOK」などすべての文字間隔や並びを決めています。タイポグラフィ自体はデザイナーにしかわからないかもしれませんが、当然スイス発祥の多くのものにはこのフォーマットが使われているので、無意識にスイスらしさやそこに紐づく清潔感を想起させるのです。

スイス国旗の赤と白を基調の色にすることでひと目見たときに訴えかけてくる清潔な印象はさらに強まります。しかも赤と白は日本国旗の色でもある。日本の復興を想起させるデザインでもあるんです。

口コミ中心に売り上げ伸長! 英語版も予定

仙台市の高進商事と共同開発し、2014年7月に発売。7800円(税抜)。非常食、飲料水、濡れタオル、非常時マニュアルブックなどからなる全15点セット。口コミを中心に売れ行きが拡大し、バイリンガル版も近日発売予定。2015年、プロダクト部門でドイツのレッドドット・デザイン賞を受賞。

 
太刀川英輔(デザイナー)
1981年生まれ。慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。2006年、NOSIGNERを創業。「社会に良い変化をもたらすためのデザイン」を理念に活動。Design for Asia Award大賞、PENTAWARDS PLATINUM、SDA最優秀賞、DSA空間デザイン優秀賞など多数受賞。
(矢倉比呂=構成 佐藤新也=撮影)
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