長蛇の列、悪臭、不衛生……。自前トイレがあると安心
ウェブサイトで震災被災者の体験談を読んでいたら、こんなのがあった。
「地震後、一番困ったのがトイレ。どこに行っても便器は排せつ物がてんこ盛りで、しゃがんだらお尻につきそう。都会だと青空のもとでってわけにもいかない。都会の人間は、外では出るものも出ないんです」
現場にいた者にしかわからない生々しい話だ。
阪神大震災でも東日本大震災でも、被災地が抱えた深刻な問題の一つがトイレ。トイレを我慢するために飲食を控え、血栓症を引き起こしたり、栄養不良から抵抗力がなくなりインフルエンザにかかる事例があった。衛生面の悪化から感染症の流行を引き起こすこともあり、非常時のトイレ対策は、飲料水や食料の確保と同等に、いやそれ以上に重要な問題である。
水道や電気のライフラインが断たれたなかでの生活。まず水洗トイレは使えなくなる。排せつ物は水を使わずに処理しなければならない。また、避難生活をおくる際は、トイレをどうするかが問題になってくる。避難所や公園のトイレは汚物の山、悪臭、長蛇の列。仮設トイレが設置されるまでにはある程度の時間がかかる。できれば便器そのものも自前で用意しておきたい。
まず断水時の水洗トイレ対策である。ウェブで「簡易トイレ」を検索するとたくさんの商品がヒットする。調べてみると基本的な機能はほぼ共通。ポリ袋を便器にセットして用を足し、凝固剤をふりかけて水分をゼリー状に固め、袋の口を縛ってゴミとして処分する。
プレジデントFamily誌上ショールームでは、粘土にカレー粉を混ぜて臭いをつけたものと、水に絵の具と酢で色と臭いをつけたものを用意し、処分時の臭いや固まり具合を比較してみた。正直なところ各商品の違いはわずかだった。そのなかで筆者がコレと思ったのは「マイレット」(まいにち)。
まず凝固剤と便器にかぶせるポリ袋、持ち運び袋がセットになっているところがいい。ポリ袋は別途用意しておけばいいのかもしれないが、非常時であわてているときなら、あらかじめ必要な数だけセットになっているほうが助かりそうだ。また公的機関で凝固剤の抗菌性が試験されていて、その結果、大腸菌やアンモニア産生菌、黄色ブドウ状球菌等に対して初期抗菌効果(試験1時間後で生菌数はほぼゼロ)および抗菌性維持効果(試験24時間後でも生菌数はほぼゼロ)が証明されている点に信頼が持てる。しかも大人1回分が7グラム。100回分セットを買っても場所をとらずに備蓄できる点もいい。
避難時の自前トイレについては、ちゃんと腰かけて用が足せるもの、収納時はコンパクトでありながらイザというときに組み立てが簡単であること、座り心地がいいことなどを理由に「レスキュートイレ」(リブラン)をセレクトした。
開発者の川島英雄さんは「富士山がゴミ問題で世界遺産に登録できなかったことを受け、富士登山に持っていけるトイレとして開発した」と言う。
プラスチック段ボールを使った便器は重さ約800グラム。軽くてコンパクトなので、心もとない気がしたが、座ってみるとソフトで心地よく、なかなか落ち着く。上部静止耐圧が約300キログラム、座る程度の動耐圧は約150キログラム。吸水性ポリマー入りの汚物処理袋がセットになっているが、市販のポリ袋と凝固剤を使用してもよい。デザインもなんとなくキュートで、愛知県警や自衛隊でも採用されている。
簡易トイレを使用する場合、公共の場を個室化できるテントがあれば便利なのでご紹介する。「ベンリーテント」(ケンユー)は軽くて手軽に持ち運べ、ワンタッチで簡単に広げられる。内部がシルバーコーティングのため、透けて中が見えることがほとんどないのも安心できる。
食べることと排せつすることは生きていくうえでの根幹をなす行為。そして排せつの仕方は人間の尊厳に関わる問題だ。1日5、6回用を足すとして、家族全員の1週間分の処理ができるよう準備しておきたい。
【断水中の自宅トイレを使う場合】汚物を素早く固める凝固剤
商品名:マイレット(まいにち)
価格:10回分/1890円(100回分セットもある)
商品内容(10回分):抗菌性凝固剤(1回分7g)・排便袋(黒)・持ち運び袋(白)各10袋ポケットティッシュ2個
保存期間:約10年間
特徴:汚物を固めて悪臭や感染症を防ぎ、可燃ごみに
【避難生活で自前トイレを使う場合】どこでも使える組み立て便器
商品名:レスキュートイレ(リブラン)
価格:5500円
商品内容:簡易トイレ本体、外袋10枚、汚物処理袋(吸水性ポリマー入り)10枚
サイズ:組み立て時:上部便座/縦320×横360、穴/縦260×横140、高さ320(mm)
特徴:軽くて丈夫、組み立て簡単。便座がソフト
プレジデントFamily誌上ショールーム新米店長
1957年、兵庫県生まれ。ライター。今回のテーマを調べるうちに被災地のトイレ問題の深刻さに仰天。首都直下地震がいつ起こるかわからない現状をふまえ、自宅のトイレ関連の備蓄を見直すことにした。