過去200年で約200万人の犠牲者を出しているハリケーンは、地球上で最もやっかいな自然災害のひとつだ。たとえば2005年に発生したカトリーナはアメリカで死者1836人、行方不明者705人にのぼる甚大な被害をもたらした。
このカトリーナに匹敵する、あるいはそれ以上の大型ハリケーンの襲来を年に3度も受けながら、人的被害はほぼゼロという奇跡の国がある。カリブ海の社会主義国家、キューバである。先進国でさえ逃れられない災害リスクを、この貧しい小国はいかにして回避しているのか。
「国を挙げての防災対策のシステムがしっかり機能しています。最大規模のハリケーンが来ても、実に全国民の25%にあたる300万人が安全に避難する。死者はわずか1桁です」
そう言うのは、世界トップクラスにあるキューバの有機農業や医療など文化政策を研究している吉田太郎さん。
人だけではない。家財は安全な倉庫に移動させ、ペットさえ国が派遣した獣医が保護してくれる。仮に家屋が倒壊してもすべて政府に補償され、被災地にはボランティアが駆けつける。さらに家主その人が政府から給金を貰い受けて、専門家とともに自宅の再建作業にあたることで、復旧公共事業として街に仕事と雇用を創出するのだという。
吉田さんとともに取材した防災の専門家、中村八郎さんは続ける。
「キューバは国連も防災のモデル国とし、米国からも視察に訪れる専門家が後を絶ちません。防災対策は予防・応急・復旧・復興の4つのフェーズからなっています。このうち、防波堤など応急対策だけが特化しているのが日本の特徴で、キューバはすべてにおいて先をいっています」
たとえば、予防。キューバでは、年に1回、大規模な防衛訓練“メテオロ”が行われる。
「詳細なハザードマップをつくり、国民はみんな、災害時にどこに避難し、どのように行動すべきか熟知しています。たとえば、あのマンションの上階で一人暮らしをしているお年寄りはどう救出するかなど、各コミュニティごとに実にきめ細かい対策を準備しています」(中村さん)
「たとえ家を失ってもみんな明るい。政府は国民の命を絶対に守ってくれる、被災しても見捨てられることはない。政府に対する揺らがない信頼感があります。私は現地で『日本は大丈夫なの』って同情されました」(吉田さん)
豊かなのは果たしてどちらなのか。日本が学ぶべきことは数多くありそうだ。