東日本大震災発生時の帰宅困難、さらに計画停電による電車の間引き運転などで、緊急時の足として自転車が改めて注目された。また首都圏では、朝夕の混雑ぶりを横目に自転車が颯爽と走る姿を見て、バスや電車から切り替えた人も多い。彼らはツーキニストと呼ばれ、通勤の足としての需要も増えている。
国内で1年間に売れる自転車の数は900万台余り。そのうち13%のシェアを持つあさひの鈴木純一経営企画課長は「当社でも発災から3週間は、被災地に近い関東地区での販売台数が前年比2倍で推移。それが牽引力となり、3月度の既存店売上高は前年比145.6%となった。4月に入っても売れ続け、6月でほぼ例年並みに落ち着いた感じだ」と話す。
売れ筋は一般車を筆頭に、スポーツ車、そして電動自転車などだ。このうち一般車は1万5000円前後の価格帯が多く買われた。スポーツ車は、ツーキニストが選ぶ街乗り仕様のクロスバイク、数万円のものが好調。また、防災グッズとして折りたたみ自転車を買っていく人たちも少なくない。
こうした状況を鈴木氏は「ここ数年健康やエコ志向、ガソリン高などで自転車人気は高まっていた。そこに今回の震災がきっかけとなり、良さが再認識された」と見ている。同社では「自転車が21世紀の中心的な乗り物になる」と主張してきた。ただそれには、駐輪場や専用レーンといったインフラの整備のほか運転者のマナーも問われる。走行時の安全・安心が向上すれば、自転車利用は加速するだろう。
(ライヴ・アート=図版作成)