3社の買収で社内がバラバラに
だが、秀行の本当の苦労はその後に待っていた。
2004年、顧客の1社だったプレス加工会社のオーナー社長が体調を崩して入院し、洋に会社を引き継いでほしいという話が持ち込まれた。負債が1億円もあったことから、当時専務だった秀行は反対したが、洋は見捨てられないとその会社をグループ化し、後に吸収合併した。
さらに、翌05年、近隣にあったアルミの板金加工会社の工場長が急死し、廃業するという知らせが入った。ちょうどニットーは新工場建設を考えていたこともあり、居抜きで土地ごと建物を購入した。
08年には近隣のプレス加工会社の社長から引退したいので会社を買ってほしいという申し入れがあった。洋はこの会社もグループ化した。
こうして、ニットーはわずか数年の間に3社も吸収合併し、規模は4倍近くになり、取引先も広がった。また、従来の金型製作に加えて、プレス部品加工、機械部品加工など量産する技術も手に入れた。通常、金型製作と量産は別々の企業だが、ニットーは一貫して対応できる企業に脱皮できた。
「大手企業も部品の生産をバラバラに依頼するより、まとめたいと考えており、当社が一括して引き受ける仕事が増えました。そのため、試作、設計など製品の開発段階から参加できるようになり、上流工程を手がけるようになったのです」
だが、M&Aによる拡大はいいことばかりではなかった。当時はそれぞれの会社ごとに従来の工場で操業していたため、無駄が生じ、人的交流も進まなかった。
そこで、秀行は2010年に3億5000万円を投じて新工場を建設し、傘下の工場を集約した。すると、社員が旧会社ごとにグループ化し、ニットーの社員と衝突するようになった。
「ニットーのやり方を押しつけるな」と合併された側の社員が怒りの声を上げると、ニットー社員からは「なぜ新工場など無駄金を使った」と不満が噴出。まるで、一艘の船に何人もの船頭がいて、勝手に船を漕ぐ状態になった。
このままでは会社が瓦解すると、秀行は各グループのリーダー格を集めて、企業理念や働くことの根本から話し合った。4カ月ほどかけて、じっくりと話し合ううちに一体感が生まれ始め、社員の提案で毎朝、朝礼で作り上げた理念を唱和するようになった。また、朝礼でパートも含めて全員が持ち回りで話し、プラス思考になる標語を発表している。
いまでも月1回、全社員が集まって会議を行い、全員が発言、最低1件は改善などの提案書を出すことになっている。
こうした土台作りの上に、トリックカバーの開発があったのだ。下請け体質から脱し、第2創業を達成する狙いだ。
寄せ木細工のような組織から一枚岩になったとき、企業は底力を発揮する。そんな法則をまさに証明してくれたようなものだろう。(文中敬称略)
●代表者:藤沢秀行
●創業:1967年
●業種:プレス金型設計、プレス部品加工、治工具設計製作、機械部品加工など
●従業員:36名
●年商:5億5000万円(2014年度)
●本社:神奈川県横浜市
●ホームページ:http://nitto-i.com/