自社製品の成功で好循環が生まれた

こうして2012年8月に発売すると、1カ月間で初回出荷分の1000台が売り切れた。

マスメディアでも紹介され、翌13年には神奈川工業技術開発大賞ビジネス賞、素形材連携経営賞素形材センター会長賞などを受賞した。


iPhoneをまるでヌンチャクのように振り回すことのできるケース「トリックカバー」。

さらに、14年9月にはオリジナル製品第2弾として、iPhoneを使って360度回転させながら3D画像を撮影できる「くるみる」を発売。現在まで200台ほど売れている。

この製品もクラウドファンディングを活用して資金調達し、約70人から123万円を集めた。

「下請けの仕事では、お客さんの反響はクレームしかないのに、自社製品では喜ばれたり、面白いと言ってもらえます。モノづくりのモチベーションが上がりましたし、会社の一体感も高まりました。社員たちもアイデアを出したり、製作に関わっています。話題になったことで、工場見学も増え、新規の依頼や休眠顧客との取引再開もありました。当社の信用度が高まりました。第3弾、4弾の製品開発も考えています」と、藤沢は楽しそうに語る。

順風満帆に見えるニットーだが、決して思いつきから自社製品開発が始まったわけでもない。成果が出るには、その布石があったのだ。

ニットーは秀行の父、洋(あきら=現会長)が1967年に創業、プレス金型製作を始めた。自動車部品の金型を中心に成長したが、洋は頼まれたら断らない主義で、次第に部品加工まで手を広げ、取引先も増えた。

秀行は大学卒業後、1995年にばねのトップメーカーである日本発条に就職するが、父から請われて97年にニットーに入社した。

当時は社員8人ほどで、創業以来のベテラン社員が多かったという。昔ながらの町工場で、清掃も行き届いていなかったので、5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)活動に取り組んだが、社内は「お坊ちゃんが何を始めたことやら」と白けたムードだった。

それでも、秀行はベテランから機械の使い方を教わりながら、打ち解けるように努力し、注文から出荷、資材調達までコントロールする生産管理システムを独自に作り上げた。それを見た大番頭の工場長は秀行を支えてくれるようになった。