強固なつながりvs柔らかなつながり

若新雄純(わかしん・ゆうじゅん)
人材・組織コンサルタント/慶應義塾大学特任助教
福井県若狭町生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程(政策・メディア)修了。専門は産業・組織心理学とコミュニケーション論。全員がニートで取締役の「NEET株式会社」や女子高生が自治体改革を担う「鯖江市役所JK課」、週休4日で月収15万円の「ゆるい就職」など、新しい働き方や組織づくりを模索・提案する実験的プロジェクトを多数企画・実施し、さまざまな企業の人材・組織開発コンサルティングなども行う。
若新ワールド
http://wakashin.com/

【若新】幅が認められない社会では、人と人とを堅くて小さな輪っかでつなぎとめようとします。しかし、きつくつなぎとめようとするほど、人は反発したり、それを壊そうとするんです。一方で、僕の目指すコミュニティは、「いくらでも伸びる柔らかいひも」でつながっているので、壊しようがない、というものです。

【藤野】強く縛らないほうが、つながりが広がっていくことは、僕自身も実感しています。僕が主催するピアノのサークルには、およそ1000人が集まっていますが、これがいま日本で最大のピアノサークルになっています。僕らは会費も取らないし、会則も名簿もない。全国各支部の責任者はいますが、お互いにどこに住んでいるかも知らない。SNSの世界でのつながりだけです。各地で定期的にピアノの弾き合い会を開いています。地域を超えて参加するのも自由。そこには出会いがあり、なんと過去5年間で20組が結婚しました。

他のピアノサークルは、会費を取ったり、名簿をつくったり、会としてのあり方を議論したりしているようですが、すぐに喧嘩したり、崩壊してしまうようです。一方で、会費も会則もない僕らの会だけが大増殖している。ルールを設けないほうが、柔らかいけれど強靭な組織になり、信頼も生まれると思いますね。

【若新】そう思います。僕はいま、「ゆるいコミュニケーション」をテーマに大学で研究しています。おっしゃるとおり、これまでどんな団体でも、会費や会則があって、会をまとめる役員や幹事がいて、というふうにシステムでつなぎとめることが必要だと考えられてきました。しかし、システム化すればするほど、一定のレベルを保てるように思えて、じつはすごく息苦しい空間になってしまいます。

そうではなくて、極めてゆるやかなつながりだけれども、その場にいたくなる、粘りっけの強いコミュニティ。毎回参加できない人や、レベルに差がある人も許してあげられるようなコミュニティ。そういうものが僕たちには必要だし、社会の一人ひとりの多様な価値を高めていくにも重要な気がしています。

でも、それのリターンが不明確であることも確かだと思うのです。未来が予想しづらい。そんな「柔らかなつながり」にも、これから投資価値が出てくると思われますか。

【藤野】すごくあると思います! あとは、そのコンセプトに賛同できる人たちにどう情報を届けるか、これを“新たな投資”としてコミュニケーションするにはアイデアが必要だと思います。

【若新】是非、一緒に考えさせてください!

(前田はるみ=構成)
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