野放しになっている「粉飾アレンジャー」

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東芝の「会計操作」の手口

たとえば今回の東芝の場合では、引当金の過小計上という「操作」が行われていた。2012年1月に地方自治体から71億円で受注した案件では、工事原価(コスト)が90億円と受注時点で19億円の赤字になっていた(※2)。本来、その赤字は直ちに計上すべきだが、必要な引当金を先送りすることで過小に計上し、利益のかさ上げを行った。

また大手タイヤメーカーの製造ライン設備を請け負う企業では、負債を圧縮する、「オフバランス」操作で10を超える銀行を手玉にとった。これは取引銀行の数を少なくみせて借入金を過小に計上し、バランスシートの負債を圧縮する手口だ。自己資本を過大にみせて、資産が負債を下回る「債務超過」を隠蔽する。この企業は、どの銀行からいくら借りたかを記載する「銀行別借入残高表」(通称「残表」)を改竄し、140億円の借入のうち70億円しか記載しなかった。大幅な赤字の隠蔽だけでなく、借りた資金の行方すらわからないといった悪質なものだった。

さらに悪質な企業では「転がし」と呼ばれる循環取引も行われる。複数の企業間売買を繰り返す循環取引は、容易に売上高を拡大させることが可能な上、利益も確保できるため、企業も手を染めやすい。なかには伝票のみの操作で、在庫の量を10倍以上に過剰計上しているケースもあった。循環取引は、取引の対象物が幅広く、大手商社やリース会社、繊維メーカー、広告代理店など、意図せずとも加担させられることもある。取材した事例では、冷凍海老、ブラウス、高級クルーザー、LEDなどが「転がし」の対象になっていた。

不正会計を外部から見抜くことはできないのだろうか。発覚した事例を取材すると、その大半は企業自らが取引金融機関に「告白」したものだとわかる。人気ドラマ「半沢直樹」のように、経理部長の引き出しから二重帳簿が発見されるようなことはない。大手金融機関は「アラーム管理システム」(通称「アラカン」)と呼ばれるシステムを導入して警戒しているが、粉飾決算の手口は年々巧妙化していて、見抜くことは困難だ。我々の取材のなかでは、「粉飾アレンジャー」と呼ばれる粉飾のプロが存在することもわかっている。

粉飾の幇助は、警察や検察の取り締まりの対象外だ。決算書の作成は経営者の責任で行われるため、「粉飾アレンジャー」の責任が問われることはない。彼らの手口に対し、あるメガバンクの幹部は「金融機関の内部の仕組みに精通しているとしか思えない」と話していた。

銀行にとっても「粉飾」の事実を突きつけるべきかどうかは悩ましい。企業が倒産した場合、債権者への配当率は一般的に数%以下といわれている。不正をただした結果、企業が倒産してしまうのであれば、会計が操作されていても企業が存続するほうが利益に貢献するともいえる。

不正会計を取り締まる税務当局にも似た事情がある。税務署は「黒字を赤字」にして法人税を逃れようとする場合には、徹底的にその企業を調べる。だが「赤字を黒字」にする場合には、税収が増えることになるので、調査を行うインセンティブがない。ステークホルダーには、不正会計を見過ごす理由があるのだ。