「朝型」が長時間労働を助長

そして、「朝型」の現場を取材した私が何よりも憂慮するのは、冒頭の食品業の人事部長の予測に反して、朝型勤務が長時間労働につながる可能性もあることだ。

ネット広告業の人事部長はこう指摘する。

「朝早く出勤しても夜遅くまで仕事をしないように担保しないと危険です。とくに外回りの営業社員は放っておくと、終電まで働いてしまう可能性もある。そうなるのが一番怖い」

社内で働く社員ならば、消灯して強制的に追い出すことも可能だが、外回りの営業には早く帰れといっても通じない。すでに始業時刻を30分前倒ししたサマータイムを実施している電器機器メーカーの役員はこう話す。

「いくら出勤時間を早くしても、部署によっては終電近くまで働いているところもあるようです。朝型勤務は労働時間削減の根本的な解決にはつながらない」

では、どうすればいいのか。

著者の溝上憲文氏が多くの企業人事部などを取材し、知られざる人事部の「腹の内」をレポートした最新刊『人事部はここを見ている!』(プレジデント社刊)。

このメーカー役員は「定時に終われるように仕事のやり方を変えないとだめだ」と言う。

「アメリカの現地法人に長年赴任していましたが、同じ営業でもアメリカと日本では仕事の中身が違います。アメリカの営業職は商品を売って、売れたら商品の手配をするだけ。基本的に営業しかやりません。ところが日本の営業は売上金の回収までやるが、営業がお金の回収までやる国は他に知らない。そのうえ日本の営業職は取引先の冠婚葬祭までやっており、とても定時に終わる働き方ではありません。アメリカの営業職の3分1は女性でしたし、ほとんどが5時に退社していました。それで成り立つように働き方を日本でも考えるべきだし、社員の一律の朝型勤務導入よりはそっちが先だと思います」(同メーカー役員)

日本企業の営業職は“何でも屋”的な無限定な働き方が求められているのも確かだ。企業の女性活躍推進で最大の障害となっているのが、時間が不規則な営業職を希望する女性が少ないことだ。

朝型勤務という杓子定規の制度を導入する前に、仕事の与え方、働き方そのものを根本的に見直すことが先決だろう。そうしないと、育児と仕事の両立を目指すいわゆるワーキングママの負担ばかりが増えてしまう。そしてそのダメージはいずれ、夫や子どもを含む家庭全体にも波及するに違いない。

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