「早く家に帰っても嫁に叱られるんだよ!」
人事部員が「もちろん、取引先に出向いているときは仕方がないとしても、内勤の日の場合は定時に帰ってもらうことがワークライフバランスの面からもよいかと……」と言う。
それに対して一部の管理職から「5時前に会社を出ても飲み屋がまだ空いていないじゃないか!」という本気とも冗談ともつかない声も上がった。中には「あんまり早く帰っても嫁に叱られるんだよ!」と、家庭の内情を暴露する中年社員もいた。
「そもそも、家に自分の居場所がないので、ストレスが強くなるだけで、夫婦げんかが増えた」「朝、あなたが早く家を出るようになったから、こっちも起床時間を早めなきゃいけないと妻から愚痴をこぼされる」
巷間、そんな夫たちの声もしばしば耳にする。朝型勤務は夫婦関係にも予期せぬ波紋を呼んでいるのだ。
前出のメーカーでは結局、始業時間を1時間ではなく、30分早めることで朝型勤務を始めることになった。
それでも営業など外回りの仕事はお客様あっての商売。こちらの都合で終業時間を決められない場合も多い。
最初から導入は無理、と語るのは外資系製薬業の人事課長だ。大半を占める営業職はドクターが相手であり、自分の都合で仕事を終わらせることができない。
「仮に会社の終業時間を17時30分にするにしても、その時刻に仕事が終わるドクターは1人もいません。営業担当者が『会社としてワークライフバランスを推進しているので、私はこれから家に帰って家族と食事をします』と言おうものなら『ふざけるな』と怒られるのは間違いありません。では本社部門だけをやるとしても、現場で問題が発生し、電話が入っても本部に誰も残っていなければ、今度は現場から『ふざけるな』と怒られるでしょう。うちのような業態では実施するのはほとんど不可能です」
仮に営業部門も含めて実施することになれば、取引先の納得と合意を取り付けておくことが必要になる。すべての会社ができるとは思えない。
▼朝型勤務は家族団らんの時間を奪う
朝型勤務の不都合を被るのは営業だけではない。ネット広告業の人事部長はこう語る。
「各部門では朝8時のミーティングを設定しているところも多い。子育て中の女性社員の中には、それに出席するためにわざわざベビーシッターに頼むケースが多いです。朝、女性社員は先に家を出て、子どもはシッターに保育園の開く時間に合わせて連れて行ってもらう。ベビーシッター代は会社が支払っていますが(オフィシャルな会議の場合)、遠距離通勤の人は家族と朝食も一緒にできません。週に1日ぐらいならまだよいかもしれませんが、毎朝8時出社となれば、社員にかなりの負担を強いることになります」
確かに通勤時間が1時間を超える子育て世代にとっては、朝型勤務によって、家族団らんどころか、食事も満足に取ることさえ難しくなってしまうかもしれないのだ。朝型は、家族を不幸せにする要素をはらんでいるのかもしれない。