子供らしい成長を後押しする効果
子供の能力開発という観点からも、生田さんはトウサンを活用した。
天体好きだった長男には、小学1年生の頃、星の図鑑を買い与えた。そのうえで星と星を定規でつないで、星座をひとつ見つけたら1トウサンを与えると伝えた。
すると、長男はまたたく間に30以上の星座を見つけてきたという。小学生の頃から「天体とロボットと農業が好き」と公言していた長男は、都立駒場高校から、関西の国立大学工学部に現役合格を果たした。大学ではロボット工学を専攻する。
次男は、小さい頃から鉱石好きで、通学路の途中で珍しい石を拾ってきては、「このキラキラ輝いているのが石英だよ」と、生田さんに教えてくれる子供だった。
次男は貯めたトウサンで、その後も関連する図鑑を買い集め、中学生になった今は、「将来は鉱石博士になって、カナダにしかないバージェス頁岩(けつがん)の調査に行く」と、驚くほど具体的な将来像を語っている。
この記事を読んで、家庭内通貨を試してみようと考えた人のための注意点を尋ねると、受験や成績と関連づけて使うのはよくないと、生田さんはきっぱりと即答した。
子供なりに頑張っていることを前提で考えれば、親が今以上に子供を頑張らせようとして使うと、どうしても自発性より、強制の要素が強まるからだ。
その結果、宿題をしなかったから、罰として10トウサンを子供から取り上げるといったようになれば、親子関係は疑心暗鬼を生じさせるものになってしまう。
「親の役目は、受験勉強でいい大学、いい会社に子供を入れることではなく、常に変化する世の中を、自分の力で歩いていけるように育てることだと私は思います。そんな子供の成長に、家庭内通貨が少しでも役に立つのならうれしいですね」
(矢木隆一=撮影)