中竹監督は思いだす。

「どうしてもチームトークって、ダメなときはネガティブなことばかりになるんです。なんでおまえはあそこでタックルを外すのだ、もっとしっかりいけよ、とダメ出しが始まる。聞いていると、そんなとき、小峰が言ったんです。そんなダメなことばかりじゃなく、ここは自分たちが自信を持つところに全員で集中していこうって」

要は、と言葉を足す。

「いかにその人が自分らしく、伸び伸びとできるかということです」

監督就任の3年間でいえば、「個人面談」の内容も随分、変わった。最初の2年間は自分のことをしゃべれないし、プレゼンする力は不足していたが、今ではきちんと準備し、言語化する能力が備わった。

そういえば、就任直後、中竹監督が「強み」「弱み」を学生に聞こうとしたら、「僕のプレーの長所、ウリはなんですか」と逆に質問されたこともある。ガックリしていたら、「中竹さん、ぼくのプレーを見てくれてないんですか」ときたのだった。

いまは違う。

「ええ全然、変わりました。去年1年間の成果であったり、自分の強みであったり、こだわりであったり、質問すると、ほとんどがきちんと表現します。そうなれば、発言に責任を持つことにもなります」

なるほど面談が機能すれば、学生にとって「気づき」にもなる。

例えば、小柄なフランカー(背番号でいえば6番、7番のポジション。攻守の要。とくに走力、タックルが求められる)の中村拓樹。大学選手権の大一番、1回戦の関東学院大戦の前にも個人面談があった。

中村は「自分の持ち味はタックル。だれにも負けない」と主張した。中竹監督が答える。「おまえのよさはタックルだけでなく、じつはアタックもなんだ」と。結果、中村は関東学院大戦で猛タックルからアタックにも絡み、先制トライを演出したのだった。

清宮前監督とのちがいを聞くと、中竹監督は胸を張る。

「劇的に清宮さんとちがうのは、ぼくは相当、学生の意見を聞いています」

その結果、「フォロワーシップ」が完成したことになる。そう言うと、中竹監督は「これは完成形がなくて、状態だと思います」とやんわり訂正するのだった。

「完成形があったら、パターン化してしまう。完成したら、崩れるということです。これはずーっと動的に動いているんです」

すなわち、ダーウィンの『種の起源』(進化論)みたいなものか。強いものが生き残るのではなく、変化したものが生き残る。変化に対応することが組織を成長させ、進化させるのであろう。

「常にリスクを背負って、変化している状態じゃないと、勝ち続けるのは難しいのです」

中竹監督は来季も指揮をとる。常勝早稲田は中竹流「フォロワーシップ」でトップを走り続けるのだった。