今回の経営時論ではこの疑問に答えよう。この基本的な疑問に答えることにより、株主主権の合理性だけでなく、日本の従来からの慣行の合理性も理解できる。
株主に会社統治の主権が与えられている理由の論拠は、次の3つの立場のいずれかに分類することができる。
第一は、所有権説で、株主主権を所有権から説明しようとするものである。株主の権利はその所有権に由来するものだと考える立場である。
この立場は、私有財産を尊重する資本主義社会のイデオロギーに則ったものであり、資本主義社会の他の法制度と整合的である。しかし、株主の所有権は完全なものではなく、限定されたものでしかない。まず株主は有限責任しか持たない所有者である。
所有者とはいっても、自分の持ち分の還付を要求できない所有者である。このような限定された所有権を論拠に株主の権利の正当化が可能かどうかには疑問の余地がある。所有権からの説明には限界があるのである。他の論拠を見てみよう。
第二は、株主がリスクを負担していることを論拠に株主による統治の権利の合理性を説明しようとする立場である。リスク負担論である。
株主は、残余としての利益の一部しか受け取ることのできない弱い存在である。このような人々はガバナンスの失敗によって損失を被る。株主は会社からの報酬が事前に決められているわけではない。ガバナンスに失敗し、誤った議決をしてしまえば、自ら損失を被る。このような損失のリスクを負担する人々は、よりよい経営が行われるように、企業の監視を真剣に行うであろう。
しかし、日本の場合、このようなリスクを負うのは株主だけではない。経営者・管理職・従業員も報酬の自主返上という形でリスクを負担している。銀行もリスクを負っている。つまり、リスクを負担しているのは株主だけかということを考えると、この立場も説得力に欠ける。日本の場合、こうしたリスク負担をしている他のステークホルダーの意向を反映するように会社統治が行われている。そしてその慣行は理にかなっていると考えることができる。
2つのメリットがある長期的コミットメント
第三に、株主は長期的な視野で自らの損得を判断しなければならない存在だという論拠である。長期コミットメント論である。
株主の拠出する資金に明確な償還期限はない。会社が清算されるか、買収されない限り、株式が償還されることはない。株主は未来永劫にわたり会社の利益の一部を配当として分配されることによって報酬を得る存在。このような長期的視野で判断を行うステークホルダーによる統治には、2つの意味でメリットがある。