2013年、LIXILグループは相次いで大型のM&Aに踏み切った。6月には米国最大の衛生陶器メーカー「アメリカンスタンダート ブランズ」、9月には欧州の水栓金具メーカー最大手である独「グローエ」の買収を決めた。
M&Aは時に「成長までの時間を買う」と形容される。そのとおりで、当社の海外事業はこれまで残念ながら弱体だった。そのまま単独で海外進出し、現地の一流ブランドなみの認知を得ようとしたらどうなるか。相当な年月がかかるうえ、実現できるかもおぼつかない。だから私たちは今回、両社を傘下に収めることで、そのスピードと確実性を「買った」のだ。
といっても、海外進出を急ぐのは日本市場を見限ったからではない。たしかに少子高齢化・人口減は続くが、国内での成長余地はまだあると私は思う。高齢化、団塊世代の大量退職、東日本大震災後の耐震やエネルギー需要の変化といった要因は、住宅設備機器メーカーとしてむしろ新しい市場をつくるチャンスである。
しかし今後10年先、20年先を見通すと、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)のほか東アジア各国やEUとの自由貿易協定が発効し、市場統合が進むだろう。ということは今後、われわれは一国単位ではなく「世界」という大きな経済共同体の中で戦っていかなければいけないということだ。それには世界における拠点やブランド力が不可欠。したがって外国企業の買収とは、次世代や次々世代が活躍するために打っておかねばならない、大事な布石ということができるのだ。
経営者としての私は「即断即決」を旨としている。M&Aのような重大案件の場合、実現までには相応の時間がかかる。しかし基本的な方針を固めたら、決断は速い。
なぜなら、外部環境は刻々と変わる。決断しないまま状況が変化すると、変化した状況に合わせて、また検討しなおすことになる。そこでもし「とりあえず様子を見よう」と先送りすれば、永遠に様子見をしたまま何もしないことになりかねない。現状と向き合い、その時点でベストな判断を下すのが経営者だ。そのことに躊躇があってはならないと思う。