一方、即断即決を実現するには、日ごろの周到な準備が必要だ。

私はふだん、案件の処理に迷うことはほとんどない。それは常に自社の戦略を思い描き、その枠組みの中で何をどう判断すればいいかを考え抜いているからだ。その場で即興的に決めるのではなく、あらかじめ思考訓練を行っているのである。

逆にいえば、軸になる戦略を考え抜いていれば、日常の判断もスピーディに下すことができるということだ。これは前職のGEで身につけた習慣である。

もっとも、人に与えられた時間は無限ではない。1日の執務時間のうち、私は基本的に次の3種を3分の1ずつ配分するように決めている。「外の時間」「内の時間」「コミュニケーションの時間」だ。

東京・霞が関の本社を出て、取引先やグループの工場、営業拠点を訪問するのが外の時間。内の時間は、経営幹部らと戦略を練ったり、会議を開いたりする時間である。

一方、コミュニケーションの時間とは、一般の社員と触れ合い、会社の戦略や私自身の考え、もっと言うと私の人間性を知ってもらうための時間である。実はこれこそが一番大事な部分と言っていい。

というのは、いくら立派な戦略を立てたところで、実践する社員が自発的に動かなければ組織は変わらない。みんなが納得し、共感したうえで大きな目標に向けて突き進む。そのために必要なのが、時には膝を突き合わすような濃密な職場のコミュニケーションだ。私はこれを重視することで、LIXILグループの社風をグローバル企業にふさわしいものに変えていきたいと考えている。

社風や文化を変えるには長い時間が必要だ。社長の職は激務であり、本来なら外の時間、内の時間をこなすだけで精一杯かもしれない。しかし私は、次世代や次々世代のために、この会社の文化を変えていかなくてはならない。だから3分の1の時間をコミュニケーションのために充てるのは、当然のことなのだ。

コミュニケーションに関しては、外の時間の使い方にも工夫がある。

工場など事業所を訪ねるときは、いつ行くかを事前に告知するようにしている。基本的には半年前、少なくとも3カ月前には関係者に予定を伝えるのだ。

「現場が特別な対応をしようとして効率を下げてしまうのではないか」という懸念がないわけではない。しかし、当社のような製造業では、トップが現場を見に行くことで従業員の士気が高まるという効果がある。たとえば3カ月前に告知すれば、その3カ月の間、私と従業員との「付き合い」が続く。このことの効果は小さくないと思っている。