会社について親子の思いを共有する
さて、ただ親子でコミュニケーションがとれるようになればそれでいいのかと言えば、後継者問題においてはそれだけではいけない。親子の間で会社の経営についてどう思っているのか、これからどうしていくのか、その思いや考えを共有する必要がある。会社についての共通認識ができていない、ズレが生じているから問題になるのだが、それもやはり日頃からそういう会話をしていないことが原因なのだ。
日本経営合理化協会では、経営者や後継者向けにセミナーを企画・運営しているのだが、親子でセミナーに申し込んできても、「親子で席を離してほしい」とわざわざ頼んでくる人が意外といる。せっかく同じセミナーに出席しても、社長と後継者が隣同士に座って会話をしないと意味がない。
席を別々にしてしまったら、講義を聴いていて、いざピンときたときに「これは活用できますね」「これができてませんね」といった意思疎通ができない。社長と後継者の間ではそういう会話こそ必要なのだ。隣にいれば、相手がうなずくところも見えるため、各論についてお互いの意見がわかってくる。そうやって一つひとつを確認し合うことが大切なのだ。
事業承継をする際に社長にぜひ作ってもらいたいのが、「社長の人生計画表」だ。社長自身の年齢、子どもの年齢、資産などから役員の年齢まで細かく書いていく。さらに、5年後にどうなっているのか、10年後にどうなっているのか、社長が引退するときに後継者の年齢はいくつで、中継ぎ社長は必要なのか、そういった計画をまとめるのだ。
すでに先のことを考えているという経営者もいるかもしれないが、それを紙に書き出すようなことをしているだろうか。意外と、「今後の計画は自分の頭の中で考えている」という人が多いだろう。しかし、それではいざというときに問題が起きてしまう。いきなり倒れてしまったりしたら、誰がその計画を知ることができるだろうか。事前にしっかりと計画を考えて、それを書きとどめておくことが問題の火種を1つなくすことになる。
後を継ぐ後継者の立場からしても、会社の経営を行うことになるのだから相応の覚悟や準備が必要だろう。事前に、社長との間で細かいすり合わせや確認もしておきたいと思うはずだ。後継者側からは言いにくいかもしれないが、「社長がどう考えているのかわからない」というのであれば、そうした勉強会に誘うなどして計画をまとめていくことだ。会社の方向性をすり合わせたり、意思を共有するために一緒に勉強会に参加する親子は年々増えている。
会社の経営から趣味の話まで、親子だからこそ時間を惜しまず会話を重ねてほしい。後継者“問題”にまで発展させないための第一歩が、コミュニケーション不足の解消なのだ。