自民党らしさを失っているような気がする
【塩田】閣議決定の無効確認の訴訟に向けてどんな活動を。
【山中】ピースウイングで数回、集会を行い、トータルでこれまで3000人を超える方々が集まってくれました。小さい形ですが、講演会や勉強会もやっています。原告団の結集も進んでおり、1000人規模になってきました。憲法学者で改憲派の小林節さん(慶大名誉教授)、護憲派の樋口陽一さん(東北大名誉教授)は2人とも大学時代の恩師ですが、一緒にやる話になっています。他に資格試験予備校の伊藤塾塾長で弁護士の伊藤真さんも、集団提訴で連携してくれることになっています。
【塩田】閣議決定そのものの無効を訴える裁判を起こす計画ですか。
【山中】もちろんです。国民にとって、平和の中で生きる「当たり前の幸せ」を享受するための平和的生存権は、政府の憲法違反の閣議決定によって侵されるということで、国民生活の現実と未来の現実的利益に関わる大きな憲法案件であると確信しています。ただ、日本の裁判制度では、提訴には実際の訴えの利益が求められます。憲法裁判所の制度があるドイツや韓国では、単なる抽象的利益だけで裁判を起こすことができますが、逆に裁判は厳格な要件でしかできないといった高いハードルがあります。逆に日本では、訴えの利益さえあれば、地方裁判所でも憲法裁判ができて、憲法に関わる判例を明確に出すことができるという特徴があります。ただ、一番の問題は入り口論ですね。
【塩田】門前払いにならないかどうか。
【山中】そうなんです。ですが、入り口論さえ突破すれば、今回はおそらく従来の統治行為論では排除できないと思います。明確に明文規定に違反しているので、入り口論を乗り越えれば、それなりの判決が出て、歯止めが利くでしょう。憲法上、保障されている平和的生存権が侵害されていることを明らかにして、平和的生存権を具体的権利として明確化していくのが訴えの利益を構築していくプロセスかなと思っています。
【塩田】安倍首相は2014年12月に総選挙を実施し、再び与党で全議席の3分の2を超える議席を獲得しましたが、「安倍政治」をどう見ていますか。
【山中】一番の問題は、安倍首相が本当に現場の「現実」を見ていないところだと思います。政策や法律、現場の実態について勉強不足という印象です。権力の暴走という問題もありますが、それ以上に、「現場」の幸せよりも自分の価値観を推し進めることが正しいと思い込んでいることが問題です。本当の国民の意向、政治の組織や財政の問題点、国家のビジョンを、現場を踏まえて見極める必要があります。
自分の価値観以外の他の価値観への寛容性を欠いているのが、いまの自民党政権の大きな問題点です。経済政策も防衛論も憲法問題も、国民をベースにしたものではなく、空中の机上の議論になってしまっている。本来の地域を軸にした自民党らしさを失っているような気がします。安倍首相には、言っても無理だろうなと思いますが、謙虚に、現場に対して寛容に見る目を持ってもらいたいですね。