集団的自衛権の解釈変更を裁判で争う

【塩田】松阪市長として、市の借金減らし、住民との意見聴取会、市内全域での住民協議会の設置、市民病院の改革、東日本大震災後の被災地支援などに取り組んできました。市民を巻き込み、役割と責任を持たせる方式は「松阪モデル」と呼ばれています。

【山中】住民の意思を地域に反映させ、住民自身が役割と責任を持つ街づくりを徹底してやってきました。トップダウンではなく、どんな街にするか、住民に責任を持ってもらい、行動できる街づくりを目指して、毎週末、意見聴取会、ワークショップ、地域との懇談会を開いてきました。おそらく日本で一番、住民と対話している首長だと断言できますが、その案件を市の職員とも徹底的に協議する。私自身、松阪市引きこもり市長なんです。

最初は、街づくりの組織化は「行政の下請け」という批判もありましたが、地域案件について地域住民が責任を持ってやる。そのために、財源については、行政も地域も住民に説明責任を果たせる事業を、ともに汗を流せるならしっかり担保します、と言っています。代表者だけを集めた審議会や検討会、パブリックコメントという形は、国でも地方でも一番、悪質です。ああいう形は廃して、住民との直接民主制のもとで、シミュレーションを出して住民に方向性を決めてもらう。こういう行政をやってきました。

【塩田】民間と提携してその活力を市政に活用する手法も注目されています。

【山中】介護予防でカラオケ機器の第一興商、学校での教育プログラムでソフトバンク、高齢者の見守りサービスでヤマト運輸、老人福祉施設への指導員派遣で化粧品のハリウッドと提携してきました。私は「明るい癒着」と呼んでいます。民間の優位性のある提案をどんどん受け入れると標榜しています。私は企業の献金はもらいません。選挙では政党や業界団体はすべて相手方に回ります。企業には個人としてはまったくお世話にならない。そういう形で企業との「明るい癒着」をオープンにして、自分の利益のためではないことを明確にしているからできます。

【塩田】一方で、2014年7月、安倍晋三内閣が集団的自衛権の憲法解釈変更について行使容認の閣議決定を行ったのに対して、「憲法違反」と訴え、裁判で争うと主張しているという記事を読みました。

【山中】安倍内閣は、まず憲法第96条の改正手続きの条項の変更という姑息なやり方を模索し、その後に秘密保護法案を成立させました。硬性憲法の基軸の第96条を変えていこうというあたりから、何かきな臭いイメージがあった中で、続いて集団的自衛権の憲法解釈変更の閣議決定を行いました。

もともと権力を抑制するのが憲法の目的で、行政としての最高意思決定である閣議決定は、本来なら憲法上の抑制を受けます。私は「たかが行政機関、たかが内閣総理大臣」という言い方をしますが、憲法の法(のり)を超えて、憲法という国民意思を淘汰する決断を下したことに対して、非常に危機意識を持ちました。立憲主義と、日本が平和国家を維持してきた原点の両面の破壊を、たかが内閣総理大臣が行った。権力構造として憲法のもとにある内閣が行った明確な憲法違反です。これまでの国体を変えていく方向性をつくった。そこを訴えているわけです。

もう一つ、憲法は明文で、武力による威嚇と武力行使は「国際紛争を解決する手段としては永久に放棄する」と規定しています。そもそも集団的自衛権は国際紛争を解決する手段以外の何物でもありません。

閣議決定が行われた直後の今年の7月3日、別の件で取材にきた記者の人に「集団的自衛権の容認は明確な憲法違反なので、提訴することによって三権分立の中で解決することができる」と話をしたら、それが新聞記事となりました。このような活動は労働組合系の人たちなどが組織的に運動することが多いんですが、私はまったく色がない人間で、もともとこういう活動が大嫌いなんです。国の問題は国民が動いてやっていかなければ、と思いますので、一般の市民の方々や普通のお母さんやおじちゃん、おばちゃんが集まって、松阪を拠点にして「ピースウイング」という集まりをつくりました。