六本木の星乃珈琲店も練馬のミヤマ珈琲も、店内は会話が弾むような空間が持ち味だ。
でも、こうした店内の雰囲気は、どこかで見た気がする。実は、星乃珈琲店とミヤマ珈琲のお手本は、名古屋を本拠地とするコメダ珈琲店だ。黒地にオレンジ色のロゴが特徴的な店舗は、地元在住者や名古屋に出張の多い人にとっては見慣れた光景だろう。
首都圏にも積極的に進出しており、6月27日には都内JR中野駅に近い「中野マルイ」にも出店した。最新の店舗数は581店(2014年8月末現在)と、ドトール(1095店=同5月末現在)、スターバックス(1034店=同3月末現在)に次ぐ規模となった。
そんなコメダの特徴が、昭和時代から続くメニューと店内の雰囲気なのだ。看板商品は「シロノワール」(590円)という、温かいデニッシュパンの上にソフトクリームとチェリーが載ったもの。77年の発売以来、長年愛される商品で、以前の星乃珈琲には、パンケーキの上にソフトクリームを載せた「ホシノワール」があったほどだ。
コメダは午前11時まで、すべてのドリンクに「モーニングサービス」でトーストとゆで玉子がつく。ブレンドコーヒーは400~420円(一部店舗で異なる)で、ドリンク代+150円など追加料金が一般的な東京型とは違い、名古屋型のモーニングはドリンク代と同料金。文字どおり“サービス”が特徴だ。この方式は星乃やミヤマも採用している。
全国に約70500店(12年)あるカフェ・喫茶店のうち、約9000店がひしめく喫茶王国の愛知県。名古屋市内の本社で、コメダの臼井興胤社長は、にこやかに語る。
「当店の特徴は飲食の味とともに空間です。ゆったりとした気分でドリンクやフードを味わいたいお客様は多い。フルサービス業態に、時代の追い風は間違いなく吹いています」
実は臼井氏は、プロの経営者としてコメダに招かれた人物だ。コメダを創業した加藤太郎氏から、08年に投資ファンドが友好的M&Aで株式を買収。13年に別の投資ファンドに経営権が移って以降も、店舗拡大を進めてきた。さらなる成長への牽引役を期待し、セガ社長や日本マクドナルドCOOを務めた人物に白羽の矢を立てた。
現場主義の臼井氏は毎週木曜日の朝6時から9時まで、本社屋にある「コメダ珈琲店 葵店」で自らコーヒーを淹れて来店客に提供している。取材日も木曜日で、業務終了後に汗を拭きながら取材場所に現れた。今でも加藤氏と定期的に会って、コメダイズムを学ぶという。
「とてつもなくハイレベルな接客ロボットが開発されないかぎり、喫茶業はなくならない。コメダが培った飲食・接客サービス・店内の雰囲気による『空気感』は簡単には真似できません。今後も日本が誇る接客レベルの高さで勝負していきたい」と臼井氏は宣言する。