セルフが駆逐した街の喫茶店を再現

東京都港区の六本木ミッドタウン――。ホテルや美術館も備えた大規模ビルにはヤフージャパン本社が入居し、館内のスターバックスは外国人利用客も多い。そこから近い外苑東通りに店を構えるのが「星乃珈琲店 六本木店」だ。

近年の喫茶業態で人気の「大正ロマン」や「昭和レトロ」(戦前の古き良き喫茶文化)を取り入れた焦げ茶色が基調のデザイン。落ち着いた店内は、今回紹介する多くの店に共通する。平日午後に訪れたが満席で、客層はビジネスマンが目立った。

店によって価格は違うが、一杯ずつ手で淹れるブレンドコーヒーは600円と、ドトールコーヒー(220円)の3倍近い。かつて自社が手がけたドトールによって激減した〝街の喫茶店.を再現した店は、都内の繁華街では、新宿や渋谷、銀座にも出店している。

銀座ルノアール社長 小宮山文男氏●創業者・小宮山正九郎氏の次男。ミヤマ珈琲は現在4店舗で、出店を加速中。店内には新聞や雑誌類を数多く揃えている。ブレンド381円。喫茶店の銀皿ナポリタン(648円)、たまごサンド(420円)などが人気。

六本木駅から都営大江戸線で約30分。練馬春日町駅に近い場所に「ミヤマ珈琲 練馬春日町店」がある。5月23日に開店したこの店を運営するのは銀座ルノアール。都心型の「喫茶室ルノアール」を手がける同社が郊外型として開発した店だ。

「コンセプトは昭和時代の喫茶店で、避暑地の別荘をイメージしました。間仕切り席を多くして、グループで来られた方にも使いやすくしています」と小宮山文男社長は説明する。

布(ネル)ドリップで淹れるブレンドコーヒーは381円と、500円台の喫茶室ルノアールより安く設定した。その理由は、「定年後の世代に気軽に来ていただきたかった。実際には、祖父母から孫まで3世代で利用される方も目立ち、中高年女性客も多く来店されます」(小宮山氏)。

小宮山氏は創業者の次男だが、長兄主義の家風で苦労しながら現場体験を積んだ。若き日は系列の炉端焼き店で店長を務め、父の猛反対を説得して、セルフ業態の「ニューヨーカーズ・カフェ」を開発して軌道に乗せた。長年ビジネスマン相手に都心型の店を手がけてきたルノアールが、次の時代を見越して開発したのが、郊外型の喫茶店だった。

「喫茶室ルノアールも、タイミングをみてお客様に日本茶を出すなど、くつろぎとやすらぎを重視してきました。ミヤマ珈琲は、地域の生活者にとって欠かせない店になりたい」