「もはやGMSの時代は終わっている」
中内さんは言われるだろう。
「岡田さん、ホンマに苦労をかけて申し訳ないなあ。でも、もはやGMSの時代は20世紀で終わっている。看板が残るとか残らないは関係なく、旧態依然とした既存の店をくっ付けたり離したりしててもしょうがないで。それよりも、コンビニに取って代わる21世紀の業態を開発せなあかんのとちゃうか?」
中内さんは、ダイエーが産業再生機構入りしたときにこんなことを言われていた。「ダイエーは21世紀の業態をつくれんかったなあ。GMSはダイエーだけが悪いんやない。イオンもヨーカ堂も一緒やで。ただ借金が多かったから最初に波をかぶっただけや。早晩、この波はイオンやヨーカ堂に行くと思うで」
それは今現実となって、流通2強に降りかかっている。
中内さんの悔しさは、21世紀の業態として期待した「ハイパーマーケット業態」が全く成立しなかったことだったと思う。リクルートを買収したのも、ハワイのアラモアナセンターを買収したのも、プロ野球の球団を持ち福岡ドームをつくったのも、すべて21世紀を見据えてのことだった。
そのひとつひとつは素晴らしくダイナミックな事業である。中内さんの事業家としての突出したスケールが伝わってくる。しかしこれらは中内さんにとっては、あくまでもコア事業である小売業の"周辺ビジネス"としてしか捉えられなかったのではないだろうか?
さて、目ぼしい関連事業を売り払ってしまったダイエーをどう料理するのか。イオンに課せられた命題は非常に重い。まして、企業は生き物である。
特にダイエーには創業者の思い、従業員の思い、消費者の思い、取引先の思い、様々な思いがいまだに錯綜しうごめいている。
ダイエーのOBに話を聞くと「いまだにダイエーや中内さんの夢を見る。『あれをやっておかなければいけなかった!』と夜中にはっと目が覚めることもある」と言う。こんなダイエーという生き物の命を絶つことは、そう簡単にできるものではない。
むしろ瀕死の重傷を負ったダイエーに、新たな命の息を吹き込む以外に道はない。それは、頭をかきむしるような困難な取り組みであることは間違いない。
しかし、その向こうに日本の小売業の新たな業態(ポストコンビニ)が見えてくるように思える。