発泡ワインとシャンパンの違い

その昔、フランスを放浪していた頃(第9回参照 https://post.president.jp/articles/-/12933)、知り合ったカトリーヌがこれまたラッパ飲みしているのをもの欲しげに見つめていたら、ほれ、とまわしてくれ、ぐっと勢いよく瓶を傾けたとたん、

「ぐはっ」

吐き出した。口のなかで泡がはじけ、気道に突入、げほ、げほと涙ながらにむせかえる私をみんなげらげらと大笑い、カトリーヌもおなかを抱え、こちらは嗤い過ぎて涙を浮かべている。

「シャンパン?」

「ノン、ヴァン・ムスー」

世間知らずの青二才は、それが酒の種類だと早合点したものだが、後に痛風オヤジと化す頃には、ワインのA・O・C(原産地統制呼称法)と同様「シャンパン」もそれ自体にA・O・Cが適用され、他地域で醸造されたものを「シャンパン」などと名乗ろうものなら、法的に罰せられると知った。

「ムスー」とは、泡のことだが、彼らが発音すると、「ムシュー」と聞こえ、それがいかにもシュワシュワと泡立つさまを表していて、すぐに覚えた。が、ヴァンの発音が難しい。

私が発すると、バン「Banne」すなわち幌とか日よけとなってしまう。そのことを彼らに指摘されて、なるほどそれで、駅の売店のオバちゃんに何回も聞き直され、

「そんなもの売ってない」

としかめ面されたのか、とわかった。それを話すと、またもや一同どっと爆笑である。

表音文字文化の彼らにしてみれば、発音が違えば、意味が異なってくるし、ときにはちんぷんかんぷんの、存在しない言葉となってしまう。英語もしかり。アメリカでは、何回試しても通じなかったので、水は「ワラ」、国防総省ペンタゴンは「ペラガン」と発音すると、なぜか通じた。

ヴァンとバンでは大違いだが、シャンパンとムスーにはたして違いがあるかどうか。