眼で愉しむ酒があった

この時期になると、コンビニでも手頃な価格のスパークリングワインすなわちムスーを売っている。

清涼飲料水の感覚でがぶ飲みするぶんには、ムスーでこと足りるであろう。値段こそシャンパンの3分の1以下だが、シャンパンとまったく同じ製造方式(シャルマー方式というものもあるが)で、味のほうも、けっしてまずくはない。

クレマン、ペティアンなどというタイプもあるが、フランスでつくられたなら、ヴァン・ムスーで、イタリアならスプマンテ、ドイツはシャウムヴァイン、スペインはエスプモーソと、どこの国にも発泡ワインはあって、お手頃価格が特徴だ。

わが国とて負けてはいない。ビールとほとんど変わらない発泡酒がある。発泡にごり酒もあるが、価格面では清酒と大差ないかむしろ高額であったりするので、これは別扱いにしなくてはなるまい。

一時期、ワイン同好会に参加したことがある。めったに飲めない高級ワインも会費を募って購入し、グラスに分けあえば気軽に飲めるというわけで、広尾にあるレストランで「ゴッセ」を試飲したのは90年7月であった。

琥珀色の液体が湛えられたグラスの淵からは、ふつふつと絶え間なくちいさな気泡が生じ、きらきらと揺らめきながら浮かんでは、すっと消える。眺めていて飽きない。眼で愉しむ酒があることを初めて知った。

発泡系の酒は、食欲を増進させる。かのコリン・ウィルソン(第23回参照 https://post.president.jp/articles/-/13609)も、船旅の間、ビールばかり飲んでいるとおそろしく太ったので、肥満対策のためビールをやめたと告白している。

私は炭酸ガスが胃を拡張させ、馬食の受け入れ態勢を整えるのではないか、とみている。

シャンパンも、泡の行方を眺めるだけにしておけば、痛風の心配はない。むろん、それができないから、発作に苦しむハメとなる。

(佐久間奏=イラストレーション)
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