顧客、社員、会社の「三方よし」経営

何度も試作を重ね、1年後の2003年に「草根木皮たまり」が完成した。そのエキスを輸入し、国内で委託製造して、第1号製品となる「優すくらぶ」を売り出した。続けて、「泡石」「秀くりーむ」を投入。現在も売上の8~9割を占める基本3点がそろった。

だが、開発と販売は違う。いいものができても売れるとは限らない。まずは宣伝用にホームページを作ろうと制作を依頼したのが、以前、副社長を務めていた松本毅史(つよし)である(現在は独立し、プロデュース業)。松本はニキビで悩んでいたが、南沢から肌のお手入れのアドバイスを受けると、たちまち改善した。南沢という人物に惹かれた松本は、無償で販促用のチラシや広報誌を作った。

商品完成前に南沢は2003年に独立して、松本と2人であきゅらいずを設立。声をかけてもらったテレビショッピングで南沢が自ら商品を説明すると、驚くほどの反響があり、1日で1億円も売り上げた。

以来、業績は急拡大。パート従業員も16人に増えたが、南沢は彼女らに質の高い電話対応を求め、毎日のように叱責を繰り返した。ある日、反乱が起きた。全パートの9割が出社を拒否したのだ。
「当初は従業員に対して怒りで一杯でしたが、そのうち自分が悪かったと気づいたのです。従業員は一方的な指示ではなく、自分で考えながら働きたかったんです」と南沢。

急すぎる拡大は社員にも顧客のためにもならないと考えた南沢は、売上の9割を占めていたテレビショッピングを全てやめた。松本は驚き、怒ったが、南沢は泣きながら「それでも、この仕事をやめない」と訴えた。

2006年度の売上は激減し、赤字になった。社員も7人中3人を解雇。最悪の状況の中で、南沢は「江戸しぐさ」について書いた本にたまたま出合った。江戸っ子たちがお互いに快適に暮らすための気配りやルールが江戸しぐさだ。感激した南沢はこれをヒントに従業員の行動指針を作り、会社とスタッフと顧客の3者が満足する「三方よし」の精神を経営理念に掲げた。

人事制度も従業員の事情に合わせて勤務時間や形態を変えられるようにし、地元の新鮮な野菜を使った栄養バランスのいい食事を出す社員食堂も作った。オフィスの冷暖房も冷温水を利用した快適な空調を導入。従業員が社内で頻繁に飲み会やパーティーなどを開くようになった。

社内のムードが次第によくなり、業績も回復。社外から「兄弟や家族のような会社」と呼ばれるようになった。2013年の創業10年を転機に、第2創業期としていま新たなビジネスモデルづくりに力を入れ始めた。企業活動が社会貢献につながるようにスキンケアにこだわらず、屋久島での6次産業化などに取り組んでいる。

南沢は心も顔もすっぴんで社員と付き合う楽しさをいま味わっている。(文中敬称略)

有限会社あきゅらいず美養品
●代表者:南沢典子
●創設:2003年
●業種:スキンケア・雑貨・食品の企画開発および通信販売
●従業員:58名(グループ117名)
●年商:15億円(2013年度)
●本社:東京都三鷹市
●ホームページ:http://akyrise.jp/
(日本実業出版社=写真提供)
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