せっかく技術力は世界最高水準なのに、なぜそれを生かしきれないのか。21世紀に入り、急速にニッポン企業のアイデア力が低下しているように見えるのは、経営者のせいか、日本人の限界なのか。
なぜ世界のソニーは凋落したのか
しかし、かつての日本企業には「卓越したアイデア力を持つ人材が豊富にいた」と語るのは元祖携帯音楽プレーヤー・ウォークマンをこの世に送ったソニーの元上席常務である作家の天外伺朗氏。自身もカリスマ技術者としてつとに有名で、CDや、犬型ロボットのAIBOの開発責任者として活躍したが、ほかにもノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈氏などがソニーに在籍していた(56年頃)。
その江崎氏は入社当時、ソニーのカルチャーを「組織された混沌」または「秩序ある混沌」と表現した。「技術者は自由奔放に仕事を進め、混沌とした面もありますが、会社全体としては目標が明確でよく秩序が保たれていた」といった趣旨のコメントも残している。
ソニーの設立趣意書の第一条にはこうある。〈真面目なる技術者の技能を最高度に発揮せしむべき自由豁達にして愉快なる理想工場の建設〉。江崎氏だけでなく、多くの才能ある人材はそうした社風のなかで、大いに成長していったのだ。
ところが、バブル崩壊後の90年代以降、ある原因でソニーのカルチャーが壊れた、と天外氏は語る。その結果、2003年4月にはソニーの業績が急落し、それにつられて日本中の株が暴落(ソニー・ショック)。天外氏は言う。
「64年に入社して以来、僕たちエンジニアは目を輝かせて無我夢中で仕事に取り組む職場しか知りませんでした。でも、ソニー・ショックの2年ほど前から、うつ病の社員が激増しました。次から次へと新アイデアが飛び出ていたソニーがなぜ凋落したのか。私なりに研究したところ、原因は90年代のトップが導入したアメリカ流の合理主義経営だとわかったのです」