率先垂範であるべき姿を示す

あわせて注目したいのは、率先垂範のアプローチだ。理念が浸透するというのは、上から与えられたものを受け入れるというより、組織として目指すことが、個々人にも「我が事」として重なっている状態になることといってもよい。押しつけられ感を回避するためボトムアップのアプローチを重視する場合もよくある。だが実際のところ、組織の上位層の方が組織文化への影響力が大きいのは、いうまでもない。メンバーは、リーダーの一挙手一投足からその組織で何が求められているかシグナルを読み取るものだ。

今回コニカミノルタでの取り組みは、上位層からの率先垂範を明確に打ち出している。あらたに設定した6つのバリューは、これから同社が勝つために必要な動き方のベースになるもので、すでに徹底できていることもあれば、これから強化していくこともあるだろう。リーダーが意識的に実践体現すべきこともあるはずだ。メンバーに変われというからには、リーダー自らが変わる。これは一番説得力があることだ。経営理念は、誰よりもまず経営陣が自らに課すものであるはずだ。

同社は、新たに整理した理念体系と合わせ、新中期経営計画「TRANSFORM2016」を掲げている。文字通り事業の形を変えていく「変革」をさらに推し進めていこうという宣言だ。目指す姿とともにその目的を明らかにすることは、組織のエンジンを点火し燃料を注入することに喩えられるだろう。

経営理論において、組織の変革を進める際のセオリーで強調されるポイントの1つが「危機感の共有」だ。これが十分でないと変革は上手く動かない。だが危機感を高めるばかりでは、人は委縮してしまう。E.H.シャインは、組織文化を変える際には、新しい学びへの不安を緩和することが肝要だといっている。理念によって「何のために働いているのか」への指針を与えること、すなわち仕事の意味づけをしていくことはプラスのエネルギーを引き出すことに通じる。

変革には多くの障害がつきものだ。ぎりぎりの正念場でもう一歩踏み出せるかが問われる。そんな時、自らが心底信じる理念がその後押しをしてくれる。山名はアメリカの子会社での実体験からそう確信している。

10年前の統合時から弛まぬ「変革」を推し進めてきたコニカミノルタ。今春より山名新体制になり、さらなる進化へとシフトアップしようとしている。目に見えるものだけでなく目に見えない部分をも変えようとしている新社長の手腕に注目したい。

竹内秀太郎(たけうち・しゅうたろう)●グロービス経営大学院主席研究員。東京都出身。一橋大学社会学部卒業。London Business School ADP修了。外資系石油会社にて、人事部、財務部、経営企画部等で、経営管理業務を幅広く経験。日本経済研究センターにて、世界経済長期予測プロジェクトに参画。グロービスでは、人材開発・組織変革コンサルタント、部門経営管理統括リーダーを経て、現在ファカルティ本部で研究、教育活動に従事。リーダーシップ領域の講師として、年間のべ1000名超のビジネスリーダーとのセッションに関与している。Center for Creative Leadership認定360 Feedback Facilitator。共著書に『MBA人材マネジメント』『新版グロービスMBAリーダーシップ』(ダイヤモンド社)がある。
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