全国展開に乗り出し、東証一部上場を果たしたアイ・ケイ・ケイ。全国進出の成功要因は、前回(http://president.jp/articles/-/14511)見た通り、(1)立地厳選、(2)顧客ニーズへの柔軟な対応、(3)勝ちパターンの見える化にあった。こうした取り組みのベースにあるのが同社の標榜する理念経営だ。
アイ・ケイ・ケイは「お客さまの感動のために」という考え方を最上位に位置づけ、「誠実・信用・信頼」「私たちは、お客さまの感動のために、心あたたまるパーソナルウェディングを実現します」「私たちは、お客さまの感動のために、素直な心で互いに協力し良いことは即実行します」「私たちは、国籍・性別・年齢・経験に関係なく能力を発揮する人財(ひと)に機会を与えます」という経営理念を掲げている。今回は、彼らの施策が成功した裏側で理念がどう作用していたのかを見ていきたい。(文中敬称略)

役職関係ないフラットな勉強会

「それでは、今日の勉強会でどんな学びがあったのか、発表をお願いします」

司会役の進行に従って各テーブルの代表者が順番に対話を通じての感想を、一言ずつ発表していく。いつもはウェディングで使っているバンケットルームに集まった50名ほどの社員たちの前で、まだ入社年次の浅いスタッフが飾らない口調で語る。

「あるお客様からアドバイス(同社ではクレームのことをアドバイスと呼ぶ)があって正直落ち込んでいたんですが、今日同じグループだった○○部長も同じような経験があったという話をしてくれて、気持ちが楽になりました」

「今日は感謝の気持ちの大切さを改めて感じました。先輩たちから指導頂いた時、今までは「すいません」と言っていたんですが、これからは「ありがとうございます」と言おうと思います」

これは同社の社内研修の一場面だ。志の高い経営者の理念や各界で活躍する人の生き方を紹介する月刊誌の記事を題材にした勉強会が定期的に実施されている。この場では部署も役職も関係ないフラットな立場で、各人が記事を読んで感じたこと考えたことを語り合う。一人ひとりの話に対し、残りのメンバーは真摯に耳を傾ける。話の流れ次第で会社での仕事の仕方に話題がおよぶこともある。ポイントは、それぞれの意見を否定することなく認め合うことだ。一人ひとりの考え方、感じ方、その裏側にある実体験や関心事を知ることで社員間の距離が縮まっていく。

この取り組みは、同社が全国展開を進め始めた頃、理念経営の導入に合わせて始めたものだ。推進役となったのは厨房部門のトップ松本正紀氏(現常務取締役)。金子和斗志社長が伊万里でホテル経営をしていた頃から、互いにぶつかりあいながらも共に歩んできた松本氏は、本気で理念経営を実践したいという社長の意向を受け、その徹底を担うことにしたのだった。

毎月2回実施されているこの勉強会は、希望者が自主的に参加する形で運営されている。たまたまスケジュールの都合で参加できない人を除いて、営業や管理部門の社員はもちろん、衣裳のコーディネーターや厨房の料理人のような専門スタッフも含め、ほぼ全員が参加している。普段はシフト勤務で始業は午後からという社員も、朝8時半からの勉強会のために早朝から足を運んでくるというから驚きだ。