佐賀から九州そして全国へと展開し、東証一部上場を果たしたアイ・ケイ・ケイ。カスタマイズされたウェディングという成長中の市場において、自社の強みを活かせる地域に絞って出店する――ある意味で教科書通りの競争戦略を着実に展開できた裏付けとして、他社が容易に真似できない「自社の強み」を築き、それを各地へ展開する際にしっかり複製できたことが見逃せない。そこには、同社が全国展開を本格的に進めるタイミングで導入した理念経営が大きく寄与しているように思われる。
トップはどんな考えを持っていたのだろうか。規模を拡大していくために、理念を共有した自分の分身をつくろうと腐心されたのではないかと想定して取材にあたったが、実際に聞けた話は、いい意味で期待を裏切り、理念経営の本質が伝わってくるものだった。
今回は理念経営に懸ける金子和斗志社長の想いを、インタビュー形式でご紹介する。

目的は金儲けではない

【竹内】金子社長はどうして理念経営を本格的に導入しようと思ったのでしょうか。

【金子】理念経営を掲げる以前から、経営にあたって自分で大事にしたい信条のようなものはありました。「金を追うな、お客さまを追え」とでもいうのでしょうか。お客様に喜んでもらうこと、社員が幸せになることを大切にしたいと考えていました。経営の目的は金儲けではありません。それを会社の確固たる理念として掲げたいと思ったのです。

社員はトップを見ています。トップの考えがわずかでもブレると、現場は大きく混乱します。組織が大きくなれば、その振れ幅は何倍にも大きくなります。佐賀の地方企業から脱皮し会社がより大きく成長する段階で、経営のあり方を確固たる理念として示したい。私は学歴も何もない人間ですが、何か誇りのもてるものを遺したい。それは人と理念だと思ったのです。

【竹内】先代から伊万里のホテルを継がれた頃からそうした経営観をお持ちだったのですか。

【金子】私は商売人の家で育ったので、物心ついた時からビジネスには興味がありました。小学校の作文で「スーパーマーケットチェーンを経営したい」と書いたぐらいです。経営者の手本として松下幸之助氏もその頃から信奉しています。

【竹内】もともと「こんな経営をしていきたい」というお考えをお持ちだった。ただご自身の個人としての信条にとどまっていたので、それを組織として全社員で共有できる理念に進化させ、世に示したいと考えられたわけですね。