理念を万人が受け入れるとは思わない
【竹内】一方、理念を社員と共有しようとすると、中には価値観を強要されることに反発する人も出てきたのではないかと思います。厨房のシェフが辞めていったという話もお聞きしました。そのような摩擦に直面しても理念経営に踏み込むことへの躊躇はなかったのでしょうか。
【金子】それはまったくありません。私はこの理念に従って経営をしていくと決めたのです。すべての人がこの理念を受け入れてくれるとは思っていません。合わない人もいるでしょう。そういう人は、無理やり引きとめるよりも、その人に合ったところを見つけてもらったほうがお互いに幸せになれると思います。
【竹内】理念を受け入れられる人財を採用時に丁寧に選び、入社後は、朝礼・昼礼・終礼、社員研修や勉強会など、折に触れ、理念に関し、各人が考え対話する機会を設け、評価や昇進にも理念の実践度を反映しておられる。外の目から見ると、御社では理念を相当なレベルで徹底されていると思います。社長ご自身は、御社での理念の浸透度をどのように評価されていますか。
【金子】「まだこれから」だと思っています。私は、稲盛和夫氏の主宰する盛和塾で理念の浸透には3つの段階があると教わりました。第1段階は、理念を知識として理解する段階です。第2段階は、それを業績に結びつけられる段階。そして第3段階は、理念を無意識のレベルで実践できる段階です。疲れている時、苦しい時でも、理念を当たり前に実践できている状態です。私自身がまだ第3段階を目指して努力している最中です。第2段階の社員が3~4割ぐらい。大半は第1段階から第2段階ではないでしょうか。
【竹内】社長ご自身としては「まだまだ満足していない」と。とはいえ、理念経営の実践によって御社は東証一部上場の企業にまで成長を遂げてきたわけですから、それなりに手ごたえを感じておられるのではないですか。
【金子】理念経営を導入した当初、これで業績を上げられるのか、正直なところ半信半疑でした。ただ取り組みを続けているうちに、全国展開にも成功し上場も実現でき、ようやく確信が持てるようになってきたところです。