共通点に注目して融合を促す

数多くの合従連衡の事例がある中で比較的スムーズな経営統合が進められたといわれるコニカミノルタ。2つの異なる会社が一緒になった際、ともすれば両社の違いが気になるものだ。だが異なる点ばかりに目を向けることは統合の妨げになる。それぞれに長い歴史がある以上、違いはあってあたりまえ。それよりも同じ点に注目する方が融和が進みやすくなる。山名の言葉を借りれば「共通のDNA」を接点として重視した。

過去に「顧客への約束」や「活動スローガン」が導入された背景には、看板事業であったBtoCの写真関連事業を捨て、BtoBソリューションへと事業の軸足をシフトする中で、商品ではなく理念を体現したヒトを通じて顧客に価値を伝えていこうという意図があった。創業事業からの撤退に伴う喪失感を乗り越えて出されたメッセージは、今回整理された新理念体系にも引き継がれ、統合会社のアイデンティティの強化に繋げられている。

理念浸透の文脈から注目すべきは、事業の推進(ハード面)と組織文化の革新(ソフト面)を表裏一体で捉えていることだ。一般に、ハード面の戦略策定や制度改革は目に見えるだけに着手しやすく進捗管理も容易だ。それに対し、ソフト面の人材のスキルとマインド、仕事の進め方や優先順位といった組織内の常識は必ずしも目に見えるわけではなくコントロールが難しい。そのためソフト面の施策は優先順位が上がりにくく、経営陣の関与も薄くなりがち。風土改革というと、勝つか負けるかのビジネスとは“別モノ”というイメージを持つ人も少なくないだろう。これが理念浸透の最大のハードルになる。

その点でコニカミノルタの山名新社長の考えは明快だ。フィロソフィーの浸透は事業推進そのものであって、決して“別モノ”ではない。理念浸透のためだけの施策に注力するのではなく、 事業推進と一体で進めていくもの。そして、間接部門のスタッフに任せておくのではなく、それぞれの事業の責任者自らが担い手となって推進すべきものとしている。「理念浸透の鍵はトップのオーナーシップだ」という言い方はよく聞くが、“別モノ”の施策にトップだけが関与しても実効性は高まらない。事業推進と連動させてこそ組織的な優先順位が上がり、トップ以外のリーダー陣も本気になるのだ。