「小倉イズム」浸透の仕組み
ヤマトグループは、理念経営を実践している日本企業の代表例の一つに数えられる。だが、グループ従業員数19万人という規模の大きさ、しかも中途採用者が大半を占めるという組織の外形的な特徴だけをみると、必ずしも理念が浸透しやすいとは思えない。少なくとも、色のついていない新卒者を採用し純粋培養で自社流に染めあげているわけではないのだ。
では、どのような人事制度や施策によって、ヤマトグループの理念が浸透した組織を作り上げているのか。育成戦略部の木村滋樹育成戦略課長によれば、次のようなやり方をとっているという。
●採用は人物重視。能力や経験以上に会社の考えに共感できるかが採用の大前提。たとえばセールスドライバーの場合、ハンドルを握る仕事というより、むしろサービスを提供する仕事と捉え「お客様の大切な荷物をその気持ちと共に届ける」という考えに共感できない人は結局長続きしないという。
逆にその理念に共鳴する人であれば、運送業の経験がなくても、現場で鍛えられながら、その仕事の意味を見出していく。日頃の集配業務の中でよいサービスを提供し、お客様からの感謝の言葉に触れると、忙しい中にも自分なりにやり甲斐を感じられるようになり、自分からもっとやってみたいという気持ちが出てくる。
●昇進、昇格については、新卒と中途の区別なく、やる気のある人にチャンスを与えるのが、同社の人事の基本ポリシーだ。我こそはと思う人が自ら手を挙げる立候補制をとっている。例えば宅急便の職場は、セールスドライバーや内勤者、フルタイマーやパートタイマーなどのメンバーを束ねることが求められるので、周囲からの信頼がなければ、手を挙げたからといって認められるとは限らない。業績だけでなく、上司・部下・同僚から評価される360度の評価制度を通じ、人間力が評価される。
●理念を浸透させる施策としては、「満足創造研修」がある。「感動体験ムービー」を鑑賞し、また各自の感動体験を共有することで「全員経営」とは日常業務の中でどのように体現されるのかについて理解を深めていく。この運営は、全国の教育担当者が担っている。
●加えて2年ほど前から、全国69ある主管支店の主管支店長およびその管下の支店長1600人ほどの管理者層には、歴史の伝承役になれるよう、会議の一部の時間を使いながら、先人たちが大事にした考え方や判断の軸について学ぶ機会を設けている。
目に見える制度や施策を見れば、他社でも似たようなことをやっているところはあるだろう。あらためてヤマトグループにおいて理念の浸透度が高いのはなぜか。木川眞会長のインタビューを通じ、感じたことを3つほどあげておきたい。