2.イズムを支えている“理”を語る

同社の理念の特徴は、単なるスローガンではなく、自社のビジネスを進める上で、その考え方がなぜ重要なのかの“理”の裏付けがしっかりとあることだ。小倉昌男氏が社訓を宅急便の文脈で言い換えて発信していたことを木川氏が賞賛していたのも、なぜそうする必要があるのかをわかりやすく伝えているからという面があるだろう。

一般に、「お客様からのありがとうのために」という理念を掲げている会社は珍しくない。だが顧客満足重視のサービスが、市場で常に勝つとは限らない。過剰サービスが利益を圧迫し事業の継続ができなくなることもありうる。それでは顧客に対し良質のサービスを継続的に提供する責任を果たせない。

その点、ヤマトグループに浸透しているイズムでは、「運送行為は委託者の意思の延長と知るべし」という社訓や、「サービスが先、利益が後」という小倉氏の言葉を実現していくために、持続可能なメカニズムを組み立てることがしっかりと意識されている。宅急便がサービス開始以来、市場からの支持を獲得し続けているのは、それを実現する仕組みに支えられているからだ。木川氏が、ハブ&スポークをゲートウェイ・ネットワークに進化させようというのも、これからの環境で、より高速に、より効率よく運ぶ上で“理”にかなっているからだ。

また同社は、社会的インフラである宅急便を展開する事業者の使命として、地域活性化支援の取り組み「プロジェクトG(government)」を推進し、その一環で、「高齢者見守り支援」を提供している。これを展開する際に、木川氏は「決して大きな利益を生む領域ではないが、長く継続させるために、少しでもいいから利益を残す仕掛けを考える必要がある」と社内で検討を重ねたという。その結果、セールスドライバーの業務負担を抑えつつ、低コストかつ確実に高齢者の異変を察知できる仕組みを生み出したのである。

青森県黒石市では地方自治体が作成した「一人暮らし高齢者向け刊行物」を配達してまわることで、無理なく運営できる高齢者見守り支援の仕組みを形にしている。このように、地域に密着した社会貢献を考えるにあたっても、顧客へのサービス提供を優先し、それがめぐりめぐって本業の宅急便ビジネスに上手く繋がるという “理”が現れている。その背景には、常に現場とそれをバックアップする経営層によるしっかりとした仕組みが存在するからといえる。