ヤマト運輸を傘下に置くヤマトホールディングス(HD)が、総合物流企業に向けた事業戦略に大きく踏み出す。大手製造業の配送業務をはじめとする企業向けの事業に経営資源を大きくシフトし、「宅急便」で市場を切り拓いてきた宅配便事業と並ぶ成長エンジンとして位置付ける。このため、総額2000億円を投じて打ち出す大規模な物流ネットワーク構想を推進する。
同社は7月3日、「バリュー・ネットワーキング構想」を発表した。約1400億円を投じ、9月下旬に稼働する予定の「羽田クロノゲート」(東京都大田区)をはじめ、三大都市圏に24時間稼働の物流ハブ機能を備えた計4カ所の大型物流拠点を新設することで、国内と海外を結ぶ一大物流ネットワークを構築し、企業の物流需要を取り込む。
同社の木川眞社長は、発表した記者会見の場で、同構想を1929年に開設した路線運送事業、76年に開発した宅急便に次ぐ「3番目のイノベーション」と位置付け、「総合的な物流企業として一歩を踏み出す」と強調した。
ヤマト運輸が事業展開する「宅急便」は、国内宅配便市場で約4割のシェアを握り、市場開拓者として圧倒的な存在感を示している。さらに、ヤマトHDの連結営業利益のほぼ8割を稼ぐ。しかし、宅配便は競争激化に、無料配送を拡大する通販業者からの値下げ圧力も加わり、収益力は低下しているのも確かで、同社にとっては「宅急便」に次ぐ収益力を備えた事業育成が経営課題だった。
宅配便は個人間の小口配達で事業をスタートし、通信販売市場の急拡大にともなって企業から個人へのサービスを広げてきた。しかし、メーカーの部品配送など企業向け事業は手薄であり、今回打ち出した物流ネットワーク構想を通じて、企業向けの物流業務を取り込む。同構想は小口、多頻度、ボーダレスなど、宅配便で培ってきたきめ細かな物流サービスの提供を目指しており、同社の計画によれば、現在、連結営業利益でほぼ2割にとどまっている「宅急便」以外の事業を、2019年度には約5割に引き上げる。
同社が3番目のイノベーションを通じて目指す総合物流化は、企業に強固な基盤を持つ国内運輸最大手・日本通運の牙城への殴り込みとも受け取れ、同社への“宣戦布告”とともに激しい顧客争奪戦が繰り広げられることも予想される。