日本経済団体連合会は7月8日の会長・副会長会議で、会員企業が新卒者の採用活動の目安に位置付けてきた「採用選考に関する企業の倫理憲章」を見直すことを決めた。

安倍晋三首相が先に経済界に対して学生の就職活動開始時期を遅らせるよう求めていた要請に正式に応じる。新たに「指針」と名称を変え、詳細を今年9月にまとめる方向も確認した。これにより、学生の就活解禁時期、企業にとっての採用活動の開始時期は、現在から3カ月遅れ、大学3年生の3月から、面接などの選考開始時期も4年生の8月に繰り下がり、現在2年生の2016年春卒業の学生から適用する。

現行の「倫理憲章」は、経団連が会員企業の「自己責任」(米倉弘昌・経団連会長)に基づき、誓約書に署名し規約を順守してきた。いわば企業側の自主判断を尊重する色合いが濃かった。これに対して、「指針」は会員企業すべてを対象とする意向で、より拘束力の強い内容になる。

指針に改訂する理由について、経団連は学業優先に配慮したとし、「首相要請に沿った」(同)の一点張り。経団連が能動的に就活解禁時期を繰り下げたわけでないことを滲ませた。経団連は「倫理憲章」を11年3月に改訂し、解禁時期を遅れさせたばかりで、これをさらに遅らせることに消極的だった。それだけに、“政府介入”に応じた狙いは、長期政権も予想される安倍政権への擦り寄りと勘ぐる見方がもっぱらだ。

しかし、衣替えする「指針」がどれだけ会員企業への強制力を持てるかは大きな課題だ。経団連は罰則を設けない見通しで、抜け駆けも予想される。一方、経団連に加盟していない外資系やネット系などの企業には「指針」の縛りはない。実際、「倫理憲章」に賛同した企業は約830社で、会員全体の6割程度にすぎない。加えて、IT企業を主体に組織する経済団体、新経済連盟の三木谷浩史代表理事(楽天会長兼社長)は「会員企業に(政府要請を)要請することにはならない」と、政府介入をはねつけた。

経団連の会員企業には通年採用を導入している企業も多く、かつての「就職協定」の復活を彷彿させる「指針」に「時代錯誤」との指摘もある。

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