子どもの大学進学を考える際の重要な指標の1つに「就職(内定)率」がある。親なら誰しも「卒業後はきちんと就職してほしい」と願うはず。しかし、「大学案内」などに記載されている「95%」「89%」などの数字が、実態からかけ離れた胡散臭いものだと指摘されていることを知ったらどう思うだろう。
大学のキャリアセンターの現役スタッフである私は、学生の就職活動(就活)やキャリア教育に対する問題提起の狙いから、『大学キャリアセンターのぶっちゃけ話』(ソフトバンク新書)を書き上げ、ブラックボックス化していた就職率の数字のカラクリについても明らかにした。
別掲の数式を見てほしい。就職率を求める割り算の分子に正規社員の内定者数が、そして分母には全卒業生から大学院に進学する者や留学する者、そしてどうしても就職したくない者を除いた数字がくることは、誰でも理解できるはず。
問題はここからだ。まず、3月の卒業時点の調査で「この先のことはわからない」という者を「進路不明者」、まったく調べがつかない者を「不明者」として分母から除く。次に、公務員試験に落ちて卒業後に再挑戦する者などについても、「通常の就職活動と違うから」という理由で同様の扱いとする。もちろん公務員試験に受かれば、分子と分母の両方にカウントして大々的にPRする。
また、ほとんどの留学生が社員教育の充実した日本企業への就職を希望している。しかし、それがかなわずに留学ビザが切れて帰国する留学生については、「帰国者」扱いをしてやはり分母から弾いてしまう。さらに、分母の数字の操作だけでは足らず、契約社員など非正規社員での就職者を分子に加える大学すらある。
そうした結果、偏差値上位校でも一部を除いて就職率の数字は20%くらい実態とかけ離れた数字になっていることが多く、下位校になればなるほど水増し率は高くなる。今年度から就職率の開示が各大学に義務付けられているが、こうしたごまかしが続いているものと思われる。
それほどまでに就職率のアップにこだわるのは、受験生を集めて大学経営を安定させたいがため。しかし、少なからぬ学生を落とし穴に陥れることになる。「わが校の就職率はいいから」といって就職未決定の卒業生へのフォローから目をそむけ、キャリアを積めない若者を生みだす原因の1つにもなっているからである。