そうした非常に厳しい条件の中、イメルトは結果を出しつつ、同時に素晴らしい人間性も発揮していた。自ら次期CEOの椅子を争う激しいレースを戦いながら、後進を育てることも忘れていなかったのである。
そんなイメルトを後任に選んだウェルチもまた素晴らしいと思うが、ウェルチが後継者に何を求めていたかといえば、それは一にも二にもウェルチの信念を絶対的に継承することであった。
そして、ウェルチの信念の伝え方は中途半端なものではなかった。
私はウェルチと1週間ほど一緒に旅したことがあるが、彼は本当に朝から晩まで自分の信念を語り続けるのだ。旅の終わり頃には、彼の言葉を完璧に反復できるまでウェルチ・イズムを刷り込まれてしまい、ウェルチの言葉なのか自分の言葉なのか区別がつかなくなってしまう始末であった。
ウェルチはそこまで徹底して自分のイズムを浸透させたうえで、自分がやってきたことをすべてひっくり返すような人物を後継者に選んでいるから、面白い。実際、イメルトは保険事業やプラスティック事業から撤退するなど、ウェルチが積み上げてきたことをいくつも覆している。なぜ、ウェルチは自分の業績を否定するような人物をみすみす後継者に据えたのかといえば、それは「常に変革を起こすこと」がGEの伝統であると同時に、ジャック・ウェルチの信念の核心だったからだ。
私はここにGEという企業の奥の深さを見る。そして、わがLIXILもかくありたいと願っている。つまり私が後継者に据えたい人材とは、藤森イズムの絶対的な信奉者でありながら、同時に私のやってきたことをすべてひっくり返すような変革者なのである。
1951年、東京都生まれ。都立田園調布高校、東京大学工学部卒。日商岩井(現双日)を経て、86年に日本ゼネラル・エレクトリック(GE)に入社。2001年から米本社上席副社長。08年、日本GE会長兼社長。11年より現職。
座右の銘・好きな言葉:You have an unlimited potential,the only limit is in your head
座右の書・最近読んだ本:『ウィニング 勝利の経営』ジャック・ウェルチ
尊敬する経営者・目標とする経営者:ジャック・ウェルチ
私の健康法:体を動かすこと。週末は水泳やゴルフで汗を流している