開発効率を20~30%アップさせる
まさに現在進行中の働き方改革。ここで実行されているアイデアはどこから生まれたのか。同社の内山田竹志会長はいう。
「働き方改革の原型は、1997年に発売した世界初のHV(ハイブリッド車)『プリウス』の開発にある。20キロメートル/リットルという高い燃費目標を課せられ、クリアするためにはHVしかないという判断を(チーフエンジニアだった)私は下した。このとき、機械と電気の技術者を同じフロアで協業させた。この成功が、今回の働き方改革につながっている」
電気部分を担当したのはパナソニックのニッケル水素電池の技術者たちだった。内山田氏は「驚いたのは、電池の人たちが加速度試験を実施していたこと。こんなやり方もあるのかと、自動車エンジニアの我々は感心した」と振り返る。
原点が示すとおり、働き方改革では「横との連携」が大きなテーマとなる。機能別の深掘りが得意な組織や人が、異質と連携することで新しい発見をし、新しい価値を生む。そのためには、横との違いを受け入れ、認め合える度量が技術者にも組織にも求められる。
実はトヨタの歴史のなかで、研究・開発と生産技術の機能が一緒になったのは、これが初めてではない。FCV(燃料電池車)の開発プロジェクトのなかで、2002年1月に約450人からなる「FC開発センター」を発足させ“小さな一体化”を果たしている。この結果、ホンダとともに世界で初めてFCVの製品化に成功し、日本政府に02年末に納車した。
超巨大企業であるトヨタだが、最先端技術に後追いではなく先行で挑むときには、その成功のため、柔軟に組織を変えてきた。いま行われている働き方改革も、新しい挑戦に成功したいというトヨタの強い意志が見てとれる。トヨタが11年から取り組んでいる新しい自動車開発手法「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)」も強い意志の表れの一つだ。15年に発売するFF(前輪駆動)車から順次導入され、これにより、トヨタは開発効率の20~30%アップを目指す。
もともと共同開発棟の建設計画は、08年には浮上していた。同年秋のリーマンショック発生時には、鉄骨など建物の資材を購入していたそうだ。だが、リーマンショック後も大規模リコール(回収・無償修理)や東日本大震災、タイ洪水などの対応に追われ、延期が重なり、ようやく13年2月の開所となった。
トヨタにとっては社内だけではなく、これまで以上に社外との関係も重要になる。事実、一体開発オフィスには、デンソーやヤマハ発動機など主要なサプライヤーも出入りしている。
所属する機能のなかに閉じこもっていたら、激しい競争環境をトヨタといえども生き抜けない。縦割りから横軸へ。働き方改革により、生み出されるイノベーション、さらにはスピーディーな開発がトヨタの新しい強さとなるのか。