具体的な法文を見てみましょう。公職選挙法は、まず、「公職にある者」が当該選挙区内にある者に対し、「いかなる名義をもつてするを問わず、寄附をしてはならない」と定めています(199条の2)。また、これに違反すると「1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金」が科されます(249条の2)。

もっとも、兄弟や両親に誕生日プレゼントを贈ったり、演説会の会場費を支出したりしただけで違法というのでは、さすがにやりすぎでしょう。そこで、親族への寄附や、政治集会での実費の負担などは例外として許されることが、明文で定められています。また、罰則にも例外があり、例えば、本人が出席する結婚式でのご祝儀などは「寄附」ではあるけれど、罰は科されないことになっています。

では、心を動かされない程度の「寄附」が、なぜ禁じられなければならないのでしょうか。実は、「寄附」と「買収」は似ているように見えて、禁止される理由が異なっています。そもそも「寄附」の禁止は、「各候補者が地盤固めのために寄附を競い合い、選挙にお金がかかってしょうがない」という状況を改善するために導入された制度(※2)なのです。

選挙にあまりにお金がかかるのでは、公職にふさわしい才能の持ち主が、「お金が無いから」という理由で立候補を諦めねばならない可能性が高まります。また、公職についた人が、選挙に使ったお金を取り戻そうと、自分の金銭的利益のためにばかり、活動するようになるかもしれません。これでは、公共のためにふさわしい人を選ぼうという選挙の目的が達成できなくなってしまいます。こうしたことにならないように、心を動かされない程度の「寄附」までも、法は禁止しているのです。

たとえ些細なものであろうと、もし抜け駆け的な寄附を許せば、寄附の競争が始まり、お金のかかる選挙の再来になってしまいます。ですから、選挙にかかわるお金については、厳格な対応が必要です。

ということは、今回の事件では、ウチワが1本いくらだったのか、つまり、寄附を受けた側にどのくらいの利益があったのか、ということはあまり重要ではありません。配ったうちわの総額がいくらなのか、つまり、寄附した側がどれだけ費用をかけているのか、ということに注目する必要があるのです。

松島氏を告発した階猛氏(民主党副幹事長)の説明によれば、3年間で合計約150万円の支出がされています。刑事罰や議員辞職まで必要かどうかはともかくとして、松島氏は一定の責任をとる必要があったと言わざるを得ないでしょう。