「思想」と「カネ」はわけて考えるべき

ところで、松島氏のウチワ問題が発覚したのと同じ時期、山谷えり子国家公安委員長など数名の閣僚が、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の関係者などと写真に写っていたことが相次いで発覚しました。

「在特会」は人種差別・排外主義を公言している団体です。なぜこの問題の責任をとって辞任する閣僚があらわれないのでしょうか。

人種差別・排外主義団体との関係を持つ人、あるいは、たとえ関係が無くても、そうした団体から強く支持されるような思想・信条を持つ人に閣僚たる資質があるのでしょうか。残念ながら閣僚の「資質」は法律で規定されていません。憲法は思想・信条の自由を保障していますから、閣僚の思想・信条のありようについても、法的規制の対象にするのは適切ではないのです。

「なんて法律は役に立たないんだ」と感じる人もいるでしょう。しかし、人種差別や排外主義の撲滅を法律に頼ったのでは、権力が濫用され、個人の自由が不当に制約される危険があります。

こうした問題は、「法的」な責任追及ではなく、有権者や国会議員の「政治的」な批判によって解決していかねばなりません。国民一人ひとりが、「なぜ人種差別や排外主義がいけないのか」と実質的な批判を提起し、選挙などを通じて責任を追及していく努力が必要です。

他方、寄附の禁止などは、選挙というレースのルールです。ここでは、候補者の公平性が何よりも重要とされます。ほんの少し人より早くスタートしただけでも、フライングはフライングであるのと同様に、「他の人がやっていない寄附を自分だけやった」という事実が、形式的に非難されます。先ほど紹介した階氏も、「告発状の御説明」というメディア向けの文書で、「他の議員」はやっていないウチワ配布により、松島氏が「不当な宣伝効果をあげ」た点を非難していました。

ちなみに、蓮舫氏も選挙ビラとして、選管の証紙つきのウチワを配っていたようですが、松島氏との違いはその形状。「厚紙のウチワはOK、柄と骨組のあるウチワはNG」との認識が候補者の間にあった、との報道もあるようです。この問題は、馬鹿馬鹿しいほど形式的に判断してゆくことが重要なのです。

※1:有権者が何を判断すべきかは、木村草太『憲法の創造力』(NHK出版新書・2013年)第2章参照。
※2:安田充・荒川敦編著『逐条解説公職選挙法(下)』(ぎょうせい・2009年)1419頁参照。

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