住民が見守る中、隔離されるエボラ出血熱感染者。(時事通信フォト=写真)

感染が拡大した背景には、現地の葬儀の風習もあるといわれています。WHOのスタッフには文化人類学の専門家もおられたので、その方々から聞いたのですが、西アフリカの葬儀は厳かで、とても盛大なのだそうです。

日本だと病院で亡くなる方が多いですから、看護師が防護具を身につけ、遺体をきれいにします。口や消化管からは亡くなった後も体液が出ますので綿を詰めたりします。そして服を着せ、あとは葬儀屋さんが棺に納めるという流れになりますが、西アフリカは違います。男性が亡くなれば男性の親族が、女性が亡くなれば女性の親族が、家の中で体をきれいにする。身近な方が死者を清めることが大切で、精神的、宗教的な意味合いが強いんです。長い間続いてきた慣習を、外からやってきた人が「そうするとエボラウイルスに感染するから、やめたほうがいい」と警告しても通じません。「今まで死者の体を洗って問題など起きなかった。何を言っているんだ」と、そういう感じだろうと思います。

エボラが流行して社会がパニック状態なのかというと違います。町の様子は至って平穏でした。420万人の国で、エボラに感染した方が半年で4000人とすると0.1%。さらにその0.1%のうち半分は助かります。エボラ以外の様々な病気で多くの人が亡くなっているのが現実ですから、ラジオで「Ebola is real(エボラは本当です)」と伝えても大半の人がリスクに実感を持てなかったのです。

いつのアウトブレーク(疫病の発生)も最初の症例がどういう経緯での感染だったのかははっきりとしません。エボラウイルスは野生のコウモリが持っているといわれていますから、コウモリの排泄物はエボラを含んでいるかもしれません。かつて、コンゴ(民主共和国)の山深いところでゴリラが多数死んでいるのが発見され、研究者が調べてみるとエボラだったという報告がありました。人間には感染せず、ゴリラだけで終わったアウトブレークですね。

今回どういう経緯でエボラが拡がったのか、そのメカニズムははっきりとしていないんです。私の印象ですが、アフリカの奥地にまで自動車社会が到来したことが関係している気がします。私たちは、5月に山奥の発生地へ行きました。車で10時間かかりましたが、それでも車が入れる程度に道路は整備されていました。トヨタのランドクルーザーがあればたどりつけるんです。そのこと自体が、これまで山奥だけで終わっていたアウトブレークが外に出て、人口の多い都市部に拡がる背景にあるのではないでしょうか。そして流行地からやってきた旅行者が外国で感染が発覚し、そこから二次感染が生まれている。便利さを求めてきた人類が「パンドラの箱をあけた」といえるのかもしれません。

新興感染症という用語が出てきたのは1970年代でした。エボラはその代表格です。研究でわかってきたのは、熱帯地域の生物の多様性です。様々な動植物ばかりでなく、熱帯雨林には病原体もたくさんあるんです。

世界的に人口が増え、人類は食べ物をつくっていかなければならなくなりました。快適な生活空間もつくらなければならないし、移動手段も増やさなければなりません。エボラの発生地である西アフリカの山奥は、鉱山資源が豊富な地域として注目を浴びてきたところでもありました。