だが、多くの企業でこうした再育成に、時間と資源を割かないようになり、よほど優秀な人でない限り、新たな部署でのチャンスを得ることが少なくなったのである。そして、それと裏腹に、戦略上のニーズが少なくなった人材の再配置は一向に進まず、自らの専門性を磨いた分野で仕事ができなくなり、とはいえ、新たな部署への異動もなく、活かされ感がないままに仕事をしなくてはならない人材が増えてきた。

ちなみに、自分や自分の周りの人を考えてみてほしい。会社の事業構成や戦略の転換によって、自分がこれまで磨いてきた専門性やキャリアが活かせない仕事をやっていると不満を漏らす人材がいないだろうか。もちろん、人材と仕事のミスフィットは昔からあったが、今、数が増え、またフィット感のない仕事に取り残される傾向が目立ってきている。

つまり、昇進という意味でも、専門性の活用という意味でも、連続したキャリアパスが維持できなくなり、働く人が、40歳前半あたりで、それ以降のキャリアを考えることが難しくなってきたのである。

さらに加えて「バブルバルジ」とでも呼べる現象が多くの企業で起こっている。多くの企業で議論されているように、バブル期(85~90年あたり)に大量に採用をした新卒社員が、20年以上近くたって、今、ミドル期に差し掛かっている現状のことである。バルジ(bulge)とは英語で膨らんでいる部分を指し、今多くの企業で、まさにミドル期採用の人員が膨らんでいる。結果として起こっているのは、さらなるミドル・マネジメントポストの不足、人件費の上昇、そしてバブルがはじけた後の採用抑制による、この年代の人材に特有の、人を率いる経験の不足などがある。