ミドルの半数が“キャリアミスト”の中にいる
今のところは、多くの企業では、この状態を、緊急の問題としてではなく、明後日の問題として考えている。でも、多くの企業で心配しているのは、バブル期の大量採用を社内に抱えたまま、今後進んでいくことはない、と考えていることだろう。
こうした要因が総合的に働いた結果、今のミドル期人材は、昇進の道もかなり細くなり、専門性を活かして、働きがいを感じる場所も少なくなり、さらに将来は、この会社にいることさえ難しいという状況に陥っているのである。これが、ミドルの危機という言葉のもう一つの意味である。
その結果、何が起こったのか。端的に言えば、ミドルの不活性化である。変革型ミドルやミドルアップ・アンド・ダウンマネジメントの担い手と称賛されたころの活き活きしたミドルとは大きく違う元気のないミドルが増えてきた。
きちんとした調査は少ないが、リクルートワークス研究所の「ワーキングパーソン調査2010」(全体N=9931)によれば、40~49歳の約45%が、3年後のキャリア展望がもてないと回答し、また「上司が自分に期待してくれている」に否定的な回答が18%、どちらともいえないが32%であった。多くのミドルが今、キャリアについて厚い靄の中を進んでいる状態のようだ。こういう状態を経営学では、“キャリアミスト”と呼び、これまでの研究では、人はキャリアミストの中にいるとき、人材として意欲が湧かず、不幸せであることがわかっている。
こうした背景の中で今、重要なのは、会社も働く人も、冒頭の金井さんの提言のように、人生・キャリアのミドルというのを節目と捉え、ここできちんと考えることだと思う。何について考えるのか、それは人と企業のそれぞれがある。
まず、人については、第一に、人生の中間点で、自分にとって、仕事が生きがいなのか、それともほかのことが生きがいなのかを見極めることだと思う。仕事以外のものが生きがいでも全くよいのである。
そうした人生のプライオリティづけを行うには40代前半はうってつけだろう。そこまで頑張って、身につけてきた仕事能力を利用して、仕事に集中してもよいし、生きがいが仕事そのものではないというのであれば、仕事はそこそこにして、ほかで喜びを見出す生き方を選択すればよい。これまでの研究によれば、仕事に頑張る人は、仕事そのものが生きがいというよりも、仕事を通じて獲得や達成できること(他者への貢献、自分の趣味、家族の幸せなど)などが意欲の源泉になっていることが多いという。これまではどこかで仕事そのものが生きがいという人生が、それ以外の生きがいよりも高次のものだという暗黙の前提があったように思う。仕事は、欲しいものを得るための手段という割り切りをするのも幸せへの近道かもしれない。