【數土】日本は人材不足のうえに、市場が育っていません。もっと自由闊達に動くべきです。中国の戦国時代には、ある国の宰相が、数年後には別の国の宰相に就いているというケースは、決して珍しくありませんでした。
【松平】日本では、「武士たるもの、二君に仕えず」とよく言いますが。
【數土】それは、徳川幕府が幕藩体制を長く続けるために、儒教を歪めてつくったのであって、孔子はそんなことは言っていません。徳川以前の戦国時代は、もっとはっきりした契約社会です。藤堂高虎と黒田官兵衛は、ともに秀長の家来、与力でしたが、その後には、官兵衛は家康の庶子である結城秀康とも親交を結び、藤堂高虎も軍師とまではいきませんが、家康の有力な参謀になっていっています。
現代の労使関係も、本来はこれくらい自由であるべきなのです。
【松平】藤堂高虎は10人の主君に仕えています。彼には築城術というコーポレート・アイデンティティがあった。誰だって自分のことを必要とするだろうという自信があったのでしょう。そういう生き方でいいわけですよね。
【數土】そうです。
【冨山】むしろ、いまの日本社会はそれを求めています。そして、これはアメリカ化とは関係ない。
【數土】そのとおり。これはアメリカから来たのではなく、実は、日本は戦国時代までそうだったのです。歴史を読まないと、そういうことがなかなかわかりません。
【松平】自分の思うがままに生きるということは、欧米の思想ではなくて日本の思想だったのですね。
【數土】黒田官兵衛のように二君に仕えるのは、もともと筋の通った生き方なのだということを、もう一度日本人は思い出すべきです。
【冨山】部下だろうが平社員であろうが、基本的に対等な関係である。そういう時代に日本も変わった、いや戻ったということです。
企業再生請負人 冨山和彦●経営共創基盤(IGPI)CEO。1960年生まれ。85年東京大学法学部卒。92年スタンフォード大学経営学修士(MBA)。ボストンコンサルティンググループを経て、2003年産業再生機構設立時にCOOに就任。07年4月にIGPIを設立、現在に至る。著書に『経営分析のリアル・ノウハウ』など。
京都造形芸術大学教授 松平定知●1944年生まれ。早稲田大学卒。69年にNHK入局。高知放送局を経て、東京アナウンス室勤。務理事待遇。2007年退局。『その時歴史が動いた』など数々の看板番組を担当。著書に『歴史を「本当に」動かした戦国武将』など。